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【FHQ】勇者の物語

第8章 夢蟲の加護


とっぷり暮れた夜。

夕食時にイワイズミさんとケンマが宿に戻って来た。朗報を持って。

出発は明日の午後。

午前中に馬車の調整と、ケンマによる魔法の付加を行ってから出発することになった。


俺はアオネさんと同じ部屋のベッドに横たわる。さっきまで寝てたベッドと同じだ。

ローテーブルを挟んだ隣で、アオネさんの規則正しい寝息を聞きながら微睡んでいると、


暗闇に立っていた。

「もういいわ!」
「うわっ!びっくりした!!」

俺の叫びに驚いた声を上げたのは、やっぱり魔王。

俺の後ろに立っていた。

「『もういいわ』て、そんなにくどい?」
「演出だよ演出。ずっと同じだから飽きる」
「そんなこと言われてもなぁ……」

魔王は首の後ろを掻きながら、困った様に眉尻を下げた。
俺は魔王の顔を見て、気がついた。

「お前、魔王様じゃないな」
「はい!?」
「夢蟲だろ」

魔王……いや、夢蟲は顔を歪めた後、小さく息を吐いて観念した様に答えた。

「はいそーですよ。俺は魔王じゃないです、夢蟲です」
「やっぱりか!」

俺の予感は的中した。
夢蟲は納得いかない顔で俺を見て質問する。

「何でわかったんだ」

だから俺はしっかり理由を教えてやる。

「気配だよ気配」
「気配だぁ?」
「そう。本物と夢で会ったことあるからな」

それを聞いた夢蟲は、ハッとして、「あの時か……」と呟いた。

「本物の魔王の気配は上にあったんだ」
「どういう意味だ」

夢蟲が今まで、俺の1番恐れる魔王に扮して夢に出てきたときは、決まって、俺と立ち位置が同じだった。まるで、俺と対等であるように。

けれど、本物の魔王が夢に出てきたときは、上にいた。俺の頭上から覗き込むように、見下すように見ていた。まるで、俺が小さな駒であるかのように。

「それに口調が違う」
「はぁ!?そっくりだろ!」
「え。どこが」

夢蟲の魔王は見栄っ張りのような、人を寄せ付けたくない、そんな気持ちがある。

しかし、本物の魔王は飄々としてて掴み所がない感じだった。

「くそぅ……あれはガセだったのかよ」
「ガセ?」

夢蟲は悔しそうに歯を軋ませて答える。


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