第8章 夢蟲の加護
「俺ら夢蟲のことは知ってるか」
「えっと、集合体ってこと?」
「まぁそんなもんだ。集合体だから、構成されてる一つ一つの分子にはそれぞれ“データ”が存在する。その莫大な量の“データ”を一纏めにして、全てを理解した分子が自我を持ち、生物として生まれる」
「ごめん、ちょっとよくわかんない」
「いいから黙って聞いてろ。その莫大な“データ”の中に魔王に関する情報があったんだ。それを実行したまでだが———、まるで別人じゃねぇか」
夢蟲はまた顔を歪めた。
彼らの知る魔王の情報と本物の魔王の情報は、食い違いがあるようだ。
夢蟲は「そういえば」と言って両手を叩いた。
「お前に言うことがあったんだった」
「言うこと?」
「俺の加護について」
そんな加護……、
「受けた覚えないし要らない」
「おいおい。お前が今こうして生きてられてるのは、誰のお陰だと思ってんだ?」
俺はケンマに言われたことを思い出した。
———上級の雷魔法を受けて、全身麻痺してる。話せるのが奇跡なぐらい、強い魔法で、効果も持続性がある。治療しても、人によっては後遺症が残るけど、たぶんショウヨウは大丈夫———
「ケンマが言ってたのって、これのこと……?」
「そう。俺のお陰で話せるし後遺症は無い」
「どういう仕組み?」
「簡単だよ」
夢蟲はニヤリと笑った。
「俺の一部をあの雷魔法に相殺させた。魔法受けたとき、痛かったろ?本来あの魔法を生身のお前が受けたら、痛みもなくポックリ逝ってたぜ」
「マジでか」
夢蟲は両手を腰に当ててこう言う。
「俺はお前の“兄貴”に免じて守ってやってんだ。感謝するんだな」
威張って言うことじゃねぇだろ!
それより、
「“兄貴”って、誰のことだ!」
「それは言えねぇ。約束なんだ。魔族は、約束は死んでも守るタチなんでね。言える時は……そうだな」
夢蟲の顔が優しくなった。
魔王の顔のせいで、だいぶ違和感があるが。
「取り付けた相手から許可が下りたときだ。じゃあな」
夢蟲は陽炎のように揺れて消えた。
気がつけば朝になっていて、部屋のカーテンの隙間から朝日が差し込んでいた。
身体の痺れはだいぶ弱くなっていた。