第6章 勇者の剣
イワイズミさんの嘘に気付かずに、テルシマさん達はキッシュを平らげた。その頃にはイワイズミさんも食事を終えて、食後の祈りをしていた。
「勇者さん達はどこから来たんスか?」
テルシマさんが俺達に興味を示して、質問してきた。
「烏野村です」
「烏野ぉ!?」
テルシマさんとその仲間が驚きの声を上げた。
サワムラさんが行ったとこだ!会った?サワムラさんに会った?!元気してる?俺らのことなんか言ってた?
一気に言葉が流れてきて思わず固まる。
「コラお前ら。ビビってるだろうが」
「すんません!イワイズミさん!!」
食後の祈りを終えたイワイズミさんが、元気なテルシマさん一派を収めてくれた。
「で、実際どうなんだ?」
イワイズミさんもサワムラさんを知ってるようだ。
「よくしてもらいましたよ。今でも元気だと思います」
俺の答えを聞いて、騎士の皆さんは安堵した。
サワムラさんが流刑になってから10年くらい経つのに、ここまで影響があるなんて……あの人何者なんだ?
しばらく会話をして、テルシマさん達は仕事に戻って行った。
テルシマさん達が戻ってすぐ、タイミングを見計らったように、イワイズミさんの元へカードが届いた。身分証だ。
「これで晴れて、俺も勇者の仲間だ」
イワイズミさんはニシシッて笑った。
「王様、よく許してくれましたね」
俺が聞くと、イワイズミさんは答えてくれた。
「今の王は、基本自由だからな。王女の事も忘れてら」
他人事のように。
「え?」
「10年前の話だ。当人ももう諦めてる」
「じゃ、じゃあ何で……何で……」
「『剣が抜けた時、大喜びしたか』って?そんなの純粋に抜けたのが嬉しかったに決まってる」
イワイズミさんってこんな人だったっけ?こんな薄情な物言いをする人だっけ?
「昼に発つぞ。部屋戻ろう」
「は、はい!」
イワイズミさんは立ち上がった。
部屋まで自分らで戻れないから、またイワイズミさんに案内してもらった。部屋に着くまで、会話は無かった。
「じゃ、また迎えに来るから」
戻ろうとするイワイズミさんの腕をアオネさんが掴んだ。
「どうした?」
イワイズミさんが振り返ると、眼前に紙袋が突き出され、中を開けると、さっきのキッシュが入ってた。
イワイズミさんは受け取ってくれた。「お手上げだ」とでも言うように。