第6章 勇者の剣
イワイズミさんは両手を組んで、食前の祈りを始めた。
……長い。
シチューの湯気がだいぶ見えなくなってる。元々そこまで立ってなかったけど……。
祈りを終えたイワイズミさんが俺の視線に気付いた。
「どうした?」
「あ、いや、キッシュ多いなと思いまして……」
俺とアオネさんはそれぞれ3つくらい食べたけど、結構腹にくる。
まだ1ホールと少し残ってるから、多いな。
「イワイズミさんも食べませんか?」
「え、いいのか?」
イワイズミさんは心底驚いたようだ。でも目は喜びで満ちてる。
王宮騎士といっても、あまり良いものは食べれてない、のか?
「はい。俺もう腹一杯で」
「アオネも、もういいのか?」
アオネさんは頷いた。
イワイズミさんは「サンキュ」と言うと、広い食堂に向かって叫んだ。
「テルシマー!情けは人の為ならずだ!お前も食え!」
すると、食堂の奥の方から声が返ってきた。声の主が見えないけど。
「マジっすかイワイズミさん!今行きまーす!」
しばらくして、イワイズミさんと似たような服を着た金髪の人が走ってきた。
「ハザっす!イワイズミさん!勇者さんも!」
「紹介する。コイツはテルシマ。元泥棒だ」
イワイズミさんはテルシマさんをそう紹介した。
「泥棒が王宮騎士になったとか、変な話でしょー?」
テルシマさんはケタケタ笑いながら、イワイズミさんの隣に座る。
「お前らはどちらかと言うと『鼠小僧』だもんな」
「うっす!」
イワイズミさんのいう鼠小僧とは、裕福な家庭から物を盗んで、貧乏な家庭に分け与える、良い泥棒だ。
「昔の癖で、つい宴の後はくすねちまいます。俺の仲間はみんなそう」
テルシマさんはキッシュを食べながら言う。
「本当に貰っちまっていいんで?」
「はい。もう食べれないので」
「イワイズミさんは?」
急に振られてイワイズミさんはシチューで噎せたが、すぐに答える。
「俺はいい。1個貰ったしな」
「マジっすか!アザっす!おーい!キッシュ食いたい奴は集まれー!」
テルシマさんが食堂に声をかけると、人が数人来て、やんややんやと騒ぎながらキッシュを食べ始めた。