第5章 旅立ち
来た時よりも、ちょっとだけ足取り軽く帰っていく小さな背中を見送って、席を立つ。
「どこに行くんですか?」
後輩のエンノシタに呼び止められた。
「ちょっとね」
俺は自分で押したスタンプのついた手紙をチラつかせた。
役場奥の休憩室に入る。誰もいない、がらんどうの部屋に申し訳程度に置かれたソファに腰掛ける。
手紙を開封して中身を読む。
「最後、滲んでる」
きっと彼女の涙だ。彼女に限って、炙り出しとかいう手の込んだことはしない。“母は忙しい”のだから。
「気になるなぁ……」
呟きながら、旅立ちの日を思い返す。
成長した2人の姿が見えなくなった途端、隣の彼女の涙の堤が決壊した。
大声で泣き続けて、俺は抱き締めるしかできなかった。
苦楽を共にした仲間の思い出が蘇って悲しいのか。想いを伝えなかった事の後悔か。
真実はわからない。ただ、彼女の涙は本物だとしか言いようがない。
「やっちゃん、ごめんね」
お母さんへの手紙、俺が全部読んでるんだ。
お母さんはもう地上にいないから。
返事も書かなくてごめんね。
いつかボロが出そうで怖いんだ。
知っておかなくちゃいけない事だけど、君がもっと大人になってからでいいかな?
その時、どんな気持ちになる?
悲しい?悔しい?憤ろしい?
その感情は全部、俺にぶつけて。
俺が全部、受け止めるから。