第5章 旅立ち
「復讐しても、誰も喜ばない。……トビオにそう言われちゃったんでしょ?」
……トビオ?
「誰?」
「カゲヤマだよ。カゲヤマ トビオ。もしかして名前聞いてない?」
あいつの名前、そういうのか。
「まぁいいや。旅に出る気は消えた?」
「まさか!むしろぐわってなった!」
「ぐわ?俄然やる気になったっての?」
「そう!」
「ちゃんと君ら人間の言葉で話してよ。はぁ」
魔王は溜息を吐いた。
俺はそろそろ我慢の限界だ。
「つーか何の用だよ!俺シーツ変えてる途中なの!」
「そんな事してんの?えっらいねぇ〜。魔王様が撫でてあげようか?」
「そこからどうやって撫でるの?」
「それもそうか。ザーンネン」
「残念ならもっと残念がれよ。用がないなら帰せ」
「あるある。用はあるよ」
魔王はヘラヘラ笑ったかと思えば、真剣な顔になって腕を組んだ。
「復讐以外の動機、見つけられそう?」
「そんなん……わかんねぇよ」
わからない。魔王は憎き倒す相手としか見れない。それ以外の動機なんて、何?
「別にさ、俺にとっちゃどーでもいいの、動機なんて」
「……は?」
「動機に拘ってんのはトビオぐらいだよ。他のチャレンジャーなんか、君なんかよりもっと不純な動機だよ」
「参考に聞くけど、例えば?」
「参考にするの?まぁいいか。そーだなー……最近殺した奴は『女の子にモテたい』って言ってた。あの顔でよく言うよ」
この人、さらりと『殺した』って言った。人間なんて魔王にとって虫ケラ同然なんだ。
「どんな動機でかかってこようが、勝つのは俺だ。いつでも待ってるよん♪」
その言い方、腹立つ。
すると、魔王は何かを思い出したように両手を叩いた。
「ねぇチビちゃん、別れる前に1個聞いていい?」
「な、なに?」
俺は身構えたが、魔王の質問に拍子抜けした。
「俺を誰かと勘違いしてない?」
「え?」
「俺、君とちゃんと話したの、これが初めてなんだけど」
「え、え」
「君とは人間で言う所の8年前に見かけて以来なんだけど、その後にも会った?」
そうか。今までに夢に出てきた魔王は、夢蟲の影響で夢に出ていただけで、こうして魔王と話すのは、初めてか……。
「夢蟲に見せられて……」
「夢蟲?」