第5章 旅立ち
「お前!夢蟲に寄生されたのか!?」
「お、おう!」
魔王の気迫に押されて、俺は数歩後ずさる。
「よく無事だったな!」
「あ、えと、キノシ……じゃなくて、魔族の血を引いた人が、食べて(?)くれて」
すんでのところで言い換えた。ここでキノシタさんの名前を出すわけにはいかない。
魔王は安堵した。
「そうか……よかった……」
「なんで魔王様が安心するの?」
「するさ……トビオの未来のなか…いやなんでもない」
「なんて?」
「なんも言ってない!」
魔王の顔がそっぽを向いた。ブツブツ何か言ってるけど、聞こえない。
俺が首を傾げて魔王を見上げてると、魔王は俺をまた見下ろした。
「成る程ね……」
意味ありげに薄ら笑いを浮かべて魔王は頷いた。俺の背中に悪寒が走る。
「俺から魔王討伐のアドバイスをあげよう」
魔王から魔王を倒す為のアドバイスって変な話だな。
「疑わしい……」
「そんな警戒しちゃって〜。信じるも信じないも君次第だっての」
魔王は肩を竦めて呆れてみせた。魔王は相変わらず俺を見下ろして話す。
「一つ、村を出るときは2人で。一つ、まずは王都へ向かえ。一つ、餞別の品は大切に。一つ、己の直感を信じて剣を取れ」
魔王はニコリと笑って手を振った。
「健闘を祈るよ」
俺の発言の余地無く魔王は消えていって、
俺は掛け布団の上に寝そべっていた。アオネさんに覗き込まれて。
俺は飛び跳ね起きて、部屋の棚のメモ帳に魔王のアドバイスを書き留める。
一、村を出るときは2人で
一、まずは王都へ向かえ
一、餞別の品は大切に
一、己の直感を信じて剣を取れ
アオネさんは不思議そうな顔をして、俺の手元を覗き込む。
「アオネさん、俺……」
アオネさんは俺の目を見てくれてる。
「やっぱり、行くよ。魔王討伐」
アオネさんは頷いた。
「動機は魔王への復讐だけど、旅の中でまた変わるかもだし、変える」
アオネさんは頷いた。
「一緒に、行ってくれるか」
アオネさんは力強く頷いた。
ベッドの池は、いつの間にか消えていた。