第5章 旅立ち
俺は、毎日カゲヤマに旅の同行許可を求めたが、全部適当にあしらわれて、数日後、ついにカゲヤマは旅に戻ってしまった。
「ケチなやつ!」
俺はカゲヤマの使っていた部屋の掃除をしている。
……意外と丁寧に使ってたんだな。
枕のシーツを剥がして、新しいものと取り替える。
掛け布団のシーツも変えようとベッドから下ろすと、
「…………はあ?」
マットレスに赤黒い“池”ができていた。
比喩とかじゃなくて、まんま池。赤黒い水面が部屋の照明を写す。
「……何、これ?」
気になって顔を近付けると、錆びた鉄の臭いってこれ……
「血ィ!?」
驚いて、一気に身を引くと、床に置いた掛け布団に足を取られてひっくり返る。
「うぎゃっ」
後頭部を床にぶつけて、鈍い音がした。
「いったたた」
頭をさすりながら身を起こすと、
「!?」
暗闇にいた。
またあの夢か!?最近見てなかったけど、また見せられてるのか!?
周りを見回しても、燃えるような家や建物は無かった。人もいない。
「ど〜したのかな〜?そ〜んなに警戒しちゃって〜?」
この聞き覚えのある声は……!
「魔王様!?どこだ!」
「上だよ上。どこ見てんの」
俺が上を向くと、
「やっほーチビちゃーん」
片手のピースを振る魔王が俺を見下ろしていた。楽しそうに。
「そんなキャラだっけ?」
「俺を何だと思ってるの?」
「人の神経を奪う愉快犯」
「お前ちょっとそこに正座しろ」
俺は正座しないで魔王を見上げる。
「今度は何の用だ!」
「復讐したいんでしょ?」
質問に質問で答える魔王。
俺は黙った。この場合の沈黙は肯定になる。