第4章 来客
「はぁっ、はあっ、はぁっ」
頬を伝う液体をシャツで拭う。
(ヤチさんに見られたら、叫ばれそう)
証拠隠滅の為に、ハエを解体してバケツに入れていく。
緑の液体がさらに噴出されて、せっかく掃除した廊下がまた汚れていく。
(くっさ!)
鼻をつく臭いに顔を顰めながら、なんとか全部詰め込んだ。
幸い、2階の部屋に泊まった旅人は、今朝全員旅に戻っていった。だからあまり急がずに、廊下の壁や床に散らばった液体を拭いていく。
……あ。天井にも飛んでる。そりゃそうか。
脚立ってどこにあったけ?倉庫?
見てみるだけ、見てみるか。
俺は階段の踊り場の柱の陰でロビーを伺う。
倉庫に最短距離で行けるのは、ロビーを通るしかない。
よし、誰もいない。
ロビーを駆けて、カウンター裏から鍵を取って、外に出る。宿の裏の倉庫から高い脚立を出して、ロビーに戻ると、アオネさんとヤチさんが床を見ていた。
2人は俺に気付いて、目を見開いた。
「ヒナタそれどうしたの!?」
(やべっ)
俺は逃げるようにロビーを駆けて階段を上ると、
「待って!説明して!」
「ヤチさん来ちゃダメー!!」
ヤチさんが追いかけてきて、その後ろからアオネさんも見える。
俺は2階の現場に戻って、とりあえず脚立は壁に立てかけて、ハエを入れたバケツを近くの部屋に入れようと手を伸ばすと、掴めなくて蹴り上げた。
ハエバケツは斜めに上に飛び、部屋から出てきた人の頭に全てぶち撒けた。
カラァン……とバケツが廊下に転がって、壁にぶつかる。
2階に到着した2人が俺の後ろにいて、ばらばらになったハエを被った人が俺の前にいて。
僅かな静寂の後、ハエを振り払った人が俺たちを見た。
「……ここはどこだ」
その冷徹な目に怒りを湛えて。