第4章 来客
「この人、弓使いなんだ」
「弓使い?」
ヤチさんは、処置をされた重症者の得物を掃除しながら呟いた。
俺は救急箱を片付けて、ヤチさんに聞く。
「うん。この弓を使って、こっちの矢を飛ばして攻撃する飛び道具だよ。前にも、ここに来た旅人さんが持ってたよね」
「そういえば、そうだね」
ヤチさんはじっと弓を見つめる。握り革を触ったり、弦の具合を見たり。
「すごい。こんな綺麗な弓、初めて見た」
俺は弓に関してはさっぱりだ。でも、ヤチさんは昔から博識で、いろんなモノに興味を示した。
そんな彼女が言うのだから、そうなのだろう。淡い青で染色され、線が細い彫刻を鏤め、作者の思いが伝わってきそうだ。
「この人は、きっと愛されて育てられたんだね」
ヤチさんは寝てる彼の額に手を置く。どこか羨ましそうな顔で。
俺は見てられなくて思わず話題を変える。
「そうだ、ヤチさん。この人を連れてきた人が2人いたんだ」
「そうなの?」
「うん。ローブを着てて顔は分からなくて、この人を置いてさっさと帰っちゃったんだ」
「そうだったんだ。ゆっくりしていけばいいのに」
「だよね。まあ、サワムラさんが切羽詰まった顔して槍を向けたから、この人だけでも置いて行こうってなったのかもな」
「え!?サワムラさんが!?」
ヤチさんは驚いて椅子から立ち上がった。
俺も驚いた。何気ない会話のつもりだったけど、ヤチさんには違ったっぽい。
「サワムラさんが、槍を向けたの!?」
ヤチさんは俺の側まで来て顔を見上げる。
「う、うん」
俺が頷くと、ヤチさんは頭を抱えた。けれど、意を決したようにまた俺を見上げた。
「ちょっと役場まで行ってくる」
「え、なんで?」
「ごめん!看病お願い!」
ヤチさんは慌てて部屋を出て行った。