第2章 第2の故郷
食堂は平穏を取り戻す。
全員の食事が終了し、ヤチさんがサービスで出してくれたお茶を皆で啜っていると、突然スガワラさんがこう切り出した。
「ヒナタとアオネはこれからどうすんだ?」
返答に困った。だからこれだけ言おう。
「詳しくは、決めてないです」
すると、スガワラさんはニヤっと笑って俺とアオネさんを驚かせた。
「ここに住んじゃえよ」
「えぇ!?」
俺は素っ頓狂な声が出て、アオネさんは目を見開いた。
意外な事に、ヤチさんが賛同した。
「良いですね!さすれば、廃れ始めてしまっているこの烏野村にも、活気が戻るのではないでしょうか?あ、いや、お2人の事情にもよりますが……」
ヤチさんはどこか弱腰だが、タナカさんとニシノヤさんも賛成の色を見せる。
「良いじゃねぇか!行くとこねぇならちょうど良いな!」
「どうだショウヨウ、タカノブ。ここは良い所だぞ!」
サワムラさんは何も言わないからきっと賛成側だ。
「受け入れてくださるのは嬉しいんですが、俺たち、アオネさんの故郷の伊達街に行こうと話し合っていたんです。出来れば、行き方を教えて欲しいです」
俺がそう言うと、ヤチさん以外が顔を曇らせた。
「あそこは……まだ近づかない方が良い」
サワムラさんが静かに言った。
「どうして、ですか?」
「あまり良い噂を聞かなくなったんだ」
……嫌な予感がする。アオネさんも家族に会えないかもしれないって事?
「あそこが数年前に産業革命で劇的に進化して、街が大きく変わってきているのは知っているか?」
「はい」
「その影響で郊外が荒れているんだ。職を失った者が路頭に迷い、家族共々ホームレスなった人達。工業廃水で川が汚れ、その所為で公害も発生している」
知ってる。家を売ってでも金を作らないと明日食べる物も無い人。今までにあった病気とは症状が違う病気……
俺はアオネさんを見た。
アオネさんは目を逸らした。
行き方を知らないなんて嘘。俺をそこへ行かせたくなかったんだ。
「ヒナタ。悪い事は言わない」
サワムラさんに向くと、しっかり俺の目を見ていた。
「伊達街に近づくな」
その目は俺に有無を言わせない、強いものを感じた。