第10章 工業の街
俺が言い終わるや否や、ケンマが扉を開けて入ってきた。
俺は相当驚いた顔をしていたのか、ケンマが俺の顔を見て逆に驚いている。
「……え?ケンマ?」
「……ショウヨウ、どうしたの、その子」
「その子?」
ケンマが驚いていたのは俺の顔じゃなくて、俺のベッドのすぐ横のスツールの座る、女の子。
だけど、顔は粘土みたいにグチャグチャで目玉があるはずの窪みには暗い空虚。乾き切った唇は半開き。赤いワンピースから覗く手足は、垢汚れで黒っぽい肌で痩せ細っている。
俺は叫ぶことも忘れて、女の子の髪に目がいった。
俺と同じオレンジ色の癖っ毛の髪を、可愛らしいヘアゴムで2つに縛っている。
なんでだろう。見覚えがある。
「ショウヨウ」
「!」
ケンマに声をかけられて飛び上がった。
「な、何?」
「その子、害は無いけど、ここに居るのが問題。
……ここから突き落とすよ」
「は?」
俺たちが居る部屋は地上4階。
「なんで!?」
ケンマは俺の質問に答える前に、開けた窓から女の子を投げ捨てた。
俺は痺れる体に鞭打ってベッドから這い出て、開けられた窓から階下を見下ろす。
自動車や人通りの激しい大通りは、特に混乱もなければあの女の子もいない。
「ケンマ、あの子って、何だったの?」
俺の問い掛けに、ケンマは少し考えて答える。
「言うなれば、ナイトメアの成りかけ、かな」
「ナイトメア?」
「魔族の一種だよ。主に精神攻撃をする、ちょっと厄介なやつ。ショウヨウ、あの子に既視感を思えたでしょ?」
「きしかん……うん、そうかも」
「ナイトメアは術をかける相手の記憶の中から、最も悲しかったり思い出したくなかったりする出来事の中で、強い結びつきを持つものに化け、幻を見せる。でもショウヨウの記憶はナイトメアを崩壊させるには十分だったみたい」
ナイトメアを崩壊させるには十分?
それってつまり……。
「俺の嫌な思い出って、ヤバい?」
「ヤバいかどうかはわからないけど、少なくとも魔王が関わってる」
俺はもう1度、街を見下ろす。
「あまりナイトメアを気にかけちゃダメだよ」
「なんで?」
「優しさに漬け込むような奴らだから」
なるほど。