第26章 翡翠の誘惑
「部屋は片づきましたね。では、溜まった書類も片づけましょう!」
「その前に、休憩しないか」
「まだ少し早いですよ?」
「そうなんだが今執務を始めて、すぐに休憩に入るなら集中できないだろう。ここで区切りをつけた方がいい」
「それもそうですね。了解です!」
そうしてマヤは六日ぶりに紅茶を淹れて、ミケの執務室でくつろいでいる。
ミケの前には湯気を上げている紅茶と新聞。
無口なミケは何も言わない。静かに紅茶をすすりながら新聞に目を落としている。
「分隊長、この感じ… 久しぶりですね」
おだやかな時が流れる執務室に懐かしさすら感じる。
「前に執務を手伝ってもらったのが先週の土曜だからな…。ほぼ一週間あいている」
新聞からマヤへ、ミケは視線を移した。
「舞踏会での事件のことは、エルヴィンから聞いている。大変だったな」
「あっ…、はい」
「マヤはペトラと仲がいいだろうから、そばにいてやればいい」
「はい…」
……ペトラの方だったんだ。
マヤはミケの言った “舞踏会での事件” は、ペトラのカインによる暴行事件か、グロブナー伯爵のミスリル銀の贋物事件かのどちらを指しているのだろうかと思っていた。
直属の上司であるミケ分隊長にはまだ、直接報告をしていなかった。報告書はエルヴィン団長に提出するように求められていたし、午後からの訓練では話す機会がなかった。
だからこの執務の時間に、機会をうかがい報告できたら… と考えていたのだが、さて、どのように報告すればいいのか…。特にペトラの事件はペトラのプライバシーにもかかわってくる気もするし、そのあたりが難しいなと感じていた。