第31章 身は限りあり、恋は尽きせず
いろんな好きがあって、それは全部自由で尊い大切な想い。
マヤ、好きよ大好き。兵長は私の初恋で、憧れの人。
オルオは幼馴染みで舌ばっかり噛んで、どんなときも一番そばにいる馬鹿。
馬鹿なオルオ…。
そして私はオルオが好きだったんだ…。
知らなかった、馬鹿は私だ…。
そんな想いをゆっくりと沼に沈めて、いつしかペトラは完全に眠った。
全周遠征訓練を終えた調査兵団の一行が兵舎に帰還したときには、とっぷりと日も暮れていた。
リヴァイは団長室に報告しに直行し、他の者は全員が食堂へ。
彼らを待ち受けていたのは、ミケ班とハンジ班の面々。
「マヤ~! ペトラ~! お帰り!」
ハンジがぶんぶんと両手を握ってきて振りまわす。
「ただいま戻りました」
「いや~、二人がいないあいだ淋しかったのなんのって」
ハンジの言葉をモブリット、ナナバ、ニファの三人で補足する。
「マヤとペトラがいないのが分隊長の英気に影響したみたいで、ここ数日研究の成果が芳しくないんだ」
「なんてったって風呂に大人しく入ったからね」
「そそ、ろくに抵抗もせずに入浴するハンジさんなんか見たことないかも」
研究の進捗具合はよくわからないが、風呂嫌いのハンジが大人しく風呂に入ったというナナバとニファの話にはペトラもマヤも驚いて、思わず顔を見合わせた。
「それはすごいね」
「うん、信じられないわ」
二人が信じられないのも無理はない。
普段、ハンジと特別にべったりといつも一緒に行動している訳ではない。食堂や大浴場でたまに一緒になったり、合同訓練があれば顔を合わすこともあるが、そんなに頻度はないからだ。
「モブリットと違って常日頃一緒に行動を共にしている訳ではないが、だからこそペトラやマヤ、そしてきっとナナバもニファも姿が見えないとなれば、それは私にとって多大なストレスだということが判明したんだ!」
「それは一体どうしてなんですか、ハンジさん?」
「さぁ、それはわからない。事実として君たち二人が忌々しい全周遠征訓練に出て、この調査兵団兵舎から姿が消えたときに、私のやる気元気エネルギーが急速にしぼんだんだ、空気の抜けた風船のようにね」