第26章 翡翠の誘惑
「あぁ…、マヤとマリウスはそう言われたらそうだな。俺らみたいに、がちゃがちゃしてなかったよな…」
オルオは少し考えている。
「それはマヤだからだよな…。俺も幼馴染みがマヤだったら、口喧嘩なんかしなさそうだな」
「じゃあマリウスがペトラと幼馴染みだったら口喧嘩してたのかな?」
「うーん」
顔を見合わせるオルオとマヤ。
「……なんか想像できないね。ペトラと口喧嘩する幼馴染みなんて…、オルオしか想像できないよ」
「そうだな」
「ペトラはマリウスじゃなくてオルオと幼馴染みだからペトラなんだし、オルオも私じゃなくてペトラと幼馴染みだから、オルオなんだもんね」
「……それ、いいな…!」
オルオの顔が少々赤い。
「ペトラは俺と幼馴染みだから、ペトラなんだよな! マヤ、なんかそれ… めっちゃ気に入った!」
そう言って笑ったオルオの顔は、いつにも増してしわくちゃになっていたが、マヤがこれまで見たなかで一番幸せそうだった。
「分隊長、この感じ… 久しぶりですね」
「前に執務を手伝ってもらったのが先週の土曜だからな…。ほぼ一週間あいている」
王都から帰ってきた翌日のミケの執務室。
午前中は予定どおりに報告書をペトラとオルオと一緒に書き上げたマヤは、その後昼食と午後の訓練の第一部を終えて、六日ぶりに執務の補佐にやってきた。
なんとなく、ぎこちなく…。執務の手伝いを始めたはいいが、長いあいだミケ単独で執務がおこなわれた執務室は乱雑を極めていた。
「分隊長! 書類の整理の前に、掃除しますよ!」
眉を吊り上げたマヤの一声で書類整理は一旦保留。部屋の掃除が始まった。
三十分もすれば部屋は片づき、執務机の上も、マヤが仕事をするテーブルの上も、ぴしっと角を揃えて置かれた書類が清々しい。
「やはりマヤがいないと駄目だな…」
綺麗になった我が執務室を見渡して、ミケはつぶやく。