第26章 翡翠の誘惑
そういった状況であったから、ミケの方から舞踏会での事件の話を振ってくれて、マヤは助かったと心の重荷が取れた気がする。
「ドレスまで作らせて呼びつけるなんて、どんな魂胆があるのかとは思っていたが、ひどい目に遭ったな…」
ミケは紅茶で喉を潤してから、さらに言葉を継いだ。
「伯爵の屋敷で起こった事件のあらましを聞いたとき、もう二度と王都に行かなければペトラもマヤも傷つくことはないと思ったんだが、そうはいかないみたいだな?」
「……どういう意味ですか?」
「すぐにでも王都に呼び戻されるらしいじゃないか」
「え?」
マヤは驚いたが、早速レイが招待してきたのかと考えた。
「もう団長のところに、招待状が届いたのですか?」
……いくらなんでも早すぎる。
昨日までレイさんとは一緒にいた。そんなに早くに便りが届く訳がないわ…。
「招待が来たのではない。エルヴィンが “レイモンド卿はすぐにでもマヤとペトラを招待するだろう” と予言してな」
「あれ…? 団長はレイさん…、あっ レイモンド卿のことなんですけど…。レイさんが私たちを舞踏会に招待するって言ってくれたことを知ってるんでしたっけ?」
……私が知らないだけで、バルネフェルト家に泊まったときに団長はレイさんから話を聞いたのかもしれないわ。
そう思って訊いてみたのだが。
「いや違う。エルヴィンの勘みたいなものだろう」
「……そうですか…」
「マヤ、今のは聞き捨てならないな」
ミケの瞳がきらりと光っている。
「レイモンド卿に誘われているのか?」
「……誘われているというか、せっかく王都に来たのに良い思い出を作れなかった私たちを不憫に思って、舞踏会に招待しようかと提案してくれたといった感じで…。本当に招待してくれるかどうかはわからないんです。今となっては社交辞令のような気もします」
「なるほど。俺はレイモンド卿に会ったことはないがエルヴィンによれば、貴族にしては話の通じる男らしいからな。それにエルヴィンの読みもある。恐らく本当に招待してくるだろう」