第26章 翡翠の誘惑
「しょうがないわね! パンとか適当に持ち帰ってあげるから感謝しなさいよね!」
恩着せがましくペトラは言う。
「なんだよ…。俺が行けないのは決定かよ…」
オルオはがっくりと肩を落とした。
「本当に食い意地が張ってるんだから…。っていうか食べ物の話をしたらおなかが空いてきちゃった。なんか食べようか?」
カフェには紅茶の他にサンドイッチも売っている。
連絡船がトロスト区に到着するのは18時過ぎ。バルネフェルト家で遅めの朝食をたらふく食べたとはいえ、兵舎の食堂で夕食を口にするまでに何かを腹に入れておきたい。
ペトラとマヤ、そしてオルオは立ち上がってサンドイッチを買いに行った。
そうして三人仲良く、サンドイッチを食べて。当然のごとく昨晩のバルネフェルト家のゴージャスすぎるサンドイッチとの比較話になり盛り上がって。
食後はオルオの意味ありげな目くばせにマヤはハッと気づいて、突然眠くなったから部屋に寝に帰る、二人はカフェでゆっくりしてねと気を利かせたが、ペトラの “え~! マヤが寝るなら私も寝る!” 発言で大失敗。
結局は船室のベッドでひとりぐっすり寝入ってしまったペトラの寝顔を見ながら、オルオとマヤは窓のそばの椅子に座っている。
「……ごめんね。オルオは気を利かせてくれたのに私は失敗しちゃって…」
「いいや、こうやって寝顔見れるし、これはこれでOK!」
ペトラへ優しいまなざしを送るオルオ。
「寝てるときは文句も言わないし可愛いのにな」
「あはは。でもオルオとやり合っているペトラが一番自然で楽しそうだよ」
「俺もこいつと馬鹿やってるときが一番楽しい」
「いいね、そういうの」
「まぁ… 幼馴染みだし?」
「私はマリウスと幼馴染みだったけど、そういう感じではなかったから憧れるなぁ」