第26章 翡翠の誘惑
マヤはせっかくデートで近づいたリヴァイとの距離を取り戻せなくて、ひとり焦っていた。
「たった三日のあいだに…、想像もしなかった経験をいくつもしました…」
……何か話さなきゃ…。
リヴァイと二人きりでいる状況に緊張して。気遣ってもらうのが申し訳なくて。
そんな気持ちと、トクントクンと跳ねている胸が共鳴していく。
「ドレスを仕立ててもらったのも、連絡船に乗ったのも、王都も貴族のお屋敷も…」
うるさいほどの鼓動を打ち消すかのように、話しつづけた。
「舞踏会も、貴族と会うのも話すのも初めてで緊張の連続でした…」
こうやってとりとめのない話をしていくうちに、きっとリヴァイ兵長との距離感を取り戻せる。
……胸だってこんなうるさいくらいにドキドキせずに、目を見てちゃんと話せるようになるはず。
そう信じてマヤは、まるで今回の舞踏会の感想を報告するかのように、言葉をつないだ。
「初めて話した貴族がカインさんだったから貴族の第一印象は悪かったし、ペトラのことがあるから、もう二度と貴族や舞踏会なんかごめんだって思ったけど…」
ここまで話して、こんな自分の貴族に対する感想なんか聞いていても面白くもなんともないだろうなと気がついて、言葉が止まってしまった。
けれども。
リヴァイが紅茶を口に含みながら “それで?” と先をうながすような優しい顔をするものだから、マヤはつづきを語り始めた。
「レイさんのおかげでペトラも私も、貴族を嫌いにならずにすみそうです」
「………」
マヤは紅茶を飲むリヴァイの表情が険しくなったことに気づかなかった。
「もしレイさんがお屋敷に泊めてくれなかったら、ペトラはショックから立ち直るのが遅れたと思います。あの広い敷地を馬車で走るだけでも、どれだけ広いんだろうってワクワクドキドキしますし、あのお屋敷! 見たこともない立派な… 兵舎の何倍もある大きなお屋敷を外から眺めるだけでも興奮するのに、実際に中に入れてもらって、泊まれるなんて。軽食として用意してくれたサンドイッチも、グロブナー伯爵の舞踏会のご馳走より美味しかったくらいです。ペトラはサンドイッチのお肉をとても気に入ってたんですよ? 今まで食べたなかで一番上等のお肉だって」