第26章 翡翠の誘惑
眠りの世界の入り口に半分以上足を突っこみながら、ペトラはむにゃむにゃとつぶやいた。
「あ~、そうだ…。ミュージアムさぁ…」
マヤも眠気に引きずられながら、なんとか返事をする。
「うん~? ミュージアムがなぁに…?」
「馬車の中で… 団長に訊いたんだ…」
「うん…」
「団長は行ったことあるって~…。レイさんが言ってたとおりに… ドレスとか~… 宝石とか… 家具とかな~んでもあるんだって…」
夢の世界がすぐそこになってきたマヤの脳裏に、きらきらとした宝石にお姫様のようなドレス、立派な武器や家具職人が手作りした椅子などが、ぽわぽわと浮かんでは消える。
「すごいねぇ…。私も行ってみたいなぁ…」
「うん~、私も~…」
ペトラはもう、ほぼ眠っている。
マヤは最後だと思って、こうつぶやいた。
「ペトラはいいなぁ…。団長と馬車が一緒で色々しゃべって… 楽しそう…。おやすみ…」
「え~、マヤの方がいいじゃん…。兵長と… 超絶イケメンのレイさんと… 両手に花… あれ~ 男は花じゃないっけ~。あれ~、なんだっけ?」
「ん~、紅一点?」
「紅一点か… あれ? そう? まぁいいや、とにかくマヤの馬車… 楽しそう… 代わってほしいよ…」
「そうでもなかったのよ…。気まずくて… 身の… 置き所がなくて…」
「ん? なんで…?」
あと数秒で眠ってしまいそうなのに、質問が来て夢の入り口から引き戻される。
途端に馬車の中での感覚がよみがえった。
「それは… 兵長に怒られて…。兵長がレイさんを… 睨んで…」
「えぇぇ~! 何それ!」
急に隣のペトラの声がシャキッとした。
「どういうこと?」
「ん~…?」
「ちょっとマヤ、どういうこと?」
「眠いよ~、ペトラ… おやすみ…」
むにゃむにゃと掛け布団を頭からかぶろうとしているマヤを、ペトラは阻止した。
「私は眠気どっか行った! その話、教えろ~!」