第26章 翡翠の誘惑
「う~ん…」
眠りの国の住民になろうとしていたマヤは、
「起きて! マヤ~!」
無理やりに掛け布団を引き剥がされた。
「……わかったよ。起きるから…」
眠い目をこすりながらマヤは上半身を起こして、興味津々の顔をしているペトラと向き合った。
「まずは… 兵長に怒られたってどういうこと?」
「えっとね…」
馬車の中の様子を、できるだけ事細かに話す。
そもそも最初からあまり友好的な雰囲気ではなかったこと。リヴァイがレイが閉めかけていた扉を強引に開けて、向こうの馬車へ行けと言われたのに無視して強引に乗りこんできたこと。
レイとテラスで二人きりで話したことを叱られたこと。
「待って。なんでレイさんと二人で話したら兵長がマヤを叱るのよ」
「うん…。船でね、男の人を簡単に信用するな、年頃なんだし気をつけろって忠告されていたの」
「え? 船で? そんなの聞いてない!」
「ごめんね。ペトラ… そのとき寝てたし、王都に着いてからは、ゆっくりと話す時間がなかったから…」
「あ~、そうだった! 私、寝てたんだった」
ごめんごめんと手を合わせて、舌をぺろりと出すペトラ。
「そっか、そういう忠告をされていたのにレイさんと二人きりになったからってことか」
「うん、そうなの。それで “無事だったのはレイモンド卿だったからで” みたいなことを兵長が言ったときにね、レイさんが “オレのこと信用してくれてるんだ” って笑ったら、なんか兵長の機嫌がもっと悪くなっちゃって。“これからは考えをあらためる” なんて怖い声で言ったあとは、レイさんが何か言うたびに睨んで…。すごくピリピリした空気になっちゃって、全然楽しくなかったの」
説明をつづけているうちに、すっかり眠気はどこかへ飛んでしまったマヤは、ふぅっとため息をついた。