第26章 翡翠の誘惑
ペトラは、うーんと両腕を天井に向かって突き上げて伸びをした。
「このネグリジェも上等だよね~! 何から何まで高そうなものが用意されていてビックリだわ」
マヤとペトラは、バルネフェルト家が用意してくれたシルクのネグリジェを着ている。ふんだんにレースが使われた優雅なデザインのものだ。
ペトラは薄いピンク、マヤは薄いブルー。
「いつも着ている部屋着のワンピースとは大違いね…」
マヤは着ているネグリジェの生地のなめらかな感触を確かめるかのように、そっと撫でた。
「本当にレイさんのところってとんでもない大金持ちだね。あのサンドイッチだってさ、もう “ちょっと軽くつまむ” ものじゃないよね。挟んでた具の肉さ、多分私が今まで食べたなかで一番上等」
「美味しかったね。お肉もだけど、ホロホロ鳥のたまごサンドが最高だった!」
マヤは初めて食べた高級食材、ホロホロ鳥のこれまた貴重とされる卵のサンドイッチの、濃厚でクリーミーな味を思い出して舌なめずりをしそうになった。
「うんうん、わかる! 美味しかったね、あれ。紅茶も美味しかったし、お風呂だってプールかと思うくらい広かったし、この部屋だって、ありえないよね。うちの家より大きいかも」
「あはは、それは盛りすぎだよ、ペトラ」
「いいや! 大げさじゃないって。うちのおじいちゃんもよく言ってたもん。“猫の額ほどの家” だって」
「そうなんだ。ペトラのおじいちゃんが言うんだったら、きっとそうなんだね」
「うん。オルオんちは兄弟多いし、結構広いんだけどね、うちは玄関に入ったと思ったら、すぐ裏口だよ」
極端な表現に、マヤは苦笑いをする。
「それはいくらなんでも…」
「ほんとだって! あっ、そうだ。いつかうちに泊まりにおいでよ」
「えっ、いいの?」
思いがけないペトラの誘いに声がはずむ。