第26章 翡翠の誘惑
「それ私も思ってさ、団長に同じことを訊いたの。そうしたら、私の場合はレイさんが “レイでいい” って言ってくれてるんだから、別に問題ないんじゃないかって。マヤも一緒?」
「私の場合は…」
マヤは月明かりのテラスでレイが名乗ってくれたときのことを思い出した。
「まだ貴族だとは知らなくて、名前はレイだって言うから、レイさんだねって感じで…」
「へぇ~、そうなんだ。じゃあ別にマヤもレイさんでかまわないんじゃない? というか、いつ知り合ったの? あのボサボサ頭の下が、あんな超絶イケメンって知ってた?」
「知らない知らない!」
否定のつもりで頭を左右に振ったら、ベッドがやわらかすぎて顔が埋もれそうになる。
「お手洗いを探していてね、屋敷の一階の北側に迷いこんだの。そこにテラスがあって、レイさんがいたんだ。アルコールを飲めない私とオルオにも、あぁそうだ、ペトラにだって親切にしてくれたでしょう?」
「うん、レモン水とおしぼりだよね」
「そうそう。それでそのことのお礼を言ってね…。そのときにレイさんが自分は臨時で雇われている給仕だと言ってたの。だから貴族だなんて知らなかったよ? 黒髪の臨時雇いの給仕のレイさんだと思ってた。顔だって黒髪で半分隠れてるから、かっこいいなんてわからなかったよ? でもね…」
レイが髪をかき上げた一瞬にのぞいた、翡翠色の美しい瞳。
「ちょっとだけ髪のあいだから瞳が見えたの。とても綺麗な透明感のある翡翠色だった」
「そっか。目の色は知ってたのね。ホントあの黒髪のかつらを取ったときの衝撃! あの銀髪と緑の目は反則だよね!」
「うん…、髪は本当に驚いた…。それに貴族だってことも」
「あの髪の色だと目立つもんね。眼鏡かけるくらいの変装じゃ、絶対ばれちゃう。だからといって、あんなボサボサのかつらにしなくても… とは思うけど!」