第26章 翡翠の誘惑
ベッドは貴族の象徴ともいえる天蓋付きベッドだ。マヤとペトラがならんで寝ても、余裕がある。いわゆるエクストラキングサイズベッドというタイプで、普通のキングサイズよりもさらに幅があり三人で寝ても充分な広さである。
その大きなベッドがどんと中央に置いてあるのに、全く狭苦しいと感じさせない部屋の広さ。一体何畳あるのだろうか、ベッド以外にもソファとテーブルはもちろんのこと、ライティングデスクにチェアもある。
その他にもシャワールームに洗面台、トイレットルームも完備してあり、ペトラ曰く “ここで一生暮らせる” ほどの贅沢な客室だ。
部屋に通されて、最初はその豪勢さにはしゃいでいたマヤだったが、あまりの広さに、そこに泊まるのが自分一人だということがやけに強調される気がして、淋しくなってしまった。
だからコンコンとノックの音がして、扉を開けるとペトラが、
「ベッドが大きすぎて落ち着かない! 眠れない!」
と言うなり部屋に飛びこんできたときは、全く同じ気持ちだったので嬉しくてたまらなかった。
「ねぇ、本当にレイさんって何者って感じだよね」
ベッドが広いのをいいことに、ペトラは思いきり両腕を真横に伸ばして、いわゆる大の字になって寝ている。
「ほら、ここに来るときもやたら塀が長かったしさ、敷地に入ったら入ったでずっと森…。それに知ってる? 反対側に公園があってさ、夜だからよく見えなかったけど。そこもレイさんとこの… バルネフェルト家のものなんだって!」
「うん、知ってる。行きがけに団長と兵長に説明してもらったよ」
「え? そうだっけ? そんな覚えないけど…」
「だってペトラ、寝てたじゃない」
「あはは、そうだった!」
無邪気にペトラは笑った。
「公園は一般に開放しているし、公爵は立派な方だと団長が話してくれたの」
「へぇ~、そうなんだ。レイさんのお父さんのバルネフェルト公爵がすごい人なんだよね?」
「うん」
「それなんだけどさ、レイさんとアトラスさんってまだ若いのに、グロブナー伯爵に対して結構タメ口だったじゃん? というか団長や兵長にもそうだったでしょ?」
「あぁ、うん。そうね」
マヤはレイとアトラスの、年が上の者に対してでも、自分みたいな下の者に対してでも変わらない言葉遣いを思い出してうなずいた。