第26章 翡翠の誘惑
グロブナー家の玄関ホールも広かったが、バルネフェルト家の玄関ホールは桁違いだ。
普通の邸宅が一軒すっぽりと入るのではないかと思わせる広さ。
四階建ての重厚な石造りの館の顔である玄関ホールは、吹き抜けになっている。高さがある分、昼間は太陽光が射しこみ明るそうではあるが、夜は構造上暗いのではないかと心配になってくるのだが、それは無用だ。
数えきれないほどのランプが、今は夜であることを忘れさせる。
そのまぶしい光のなかで、きちんと左右に分かれて整列している使用人の姿勢の良さ。急に客を迎えることになっても、執事とメイドの服装や表情には、一分の隙もない。あたかもスケジュール通りの客を朝方に出迎えているかのようだ。
豪勢な屋敷の造りと、居並ぶ執事とメイドの存在感に圧倒される。
……これが “最低限の出迎え” だなんて!
マヤは心の中で何度もすごいと驚いた。
まるで王族にでもなったかのような扱いを受けながら、大きな客間に通される。
そこで何か軽くでも食事をするか、風呂に入るか、休むかとレイに訊かれて、紅茶とサンドイッチを用意してもらうことになった。
マヤとペトラは、気分はすぐにでも風呂に入ってベッドに潜りこみたかったのだが、冷静に自身の腹具合を考えてみると結構な空腹であることに気づいた。
「サンドイッチだったら軽食だし、ぱっと食べちゃって、そのあとお風呂に入ろう!」
ペトラの意見にマヤも賛成したのだったが、その後次々と運ばれてきたありとあらゆる具材のサンドイッチを目の前にして、呆然としたのは言うまでもない。
「……なんでも広すぎるってのも、考え物だね」
「そうだね…」
「こうやってマヤと二人で寝ても、まだまだ余裕ってこのベッド、どうなってんの!」
「あははは…」
マヤは今、あてがわれた客室のベッドにペトラと二人で寝転がっている。
ここはマヤが “一人で” 休むように用意された部屋。同じくペトラもオルオも、エルヴィン団長もリヴァイ兵長もそれぞれ個室が用意された。
だが部屋が広すぎて、ベッドが大きすぎて…。
「落ち着かない! 眠れない!」
とペトラが、隣のマヤの部屋に遠征してきたのだ。