第11章 紅茶の時間
マヤの扉を閉めるパタンという音が、静かな部屋にやけに大きく響いた。
「おい てめぇ、いつもこんなことしてるんじゃねぇだろうな」
リヴァイの声が殺気立っている。
「はは、何を怒っているんだ リヴァイ?」
「別に怒っちゃいねぇ」
「そうか? 俺の気のせいという訳だな」
ミケはフンと鼻で笑った。
「……心配するな リヴァイ。からかっただけだ」
リヴァイはソファにドカッと座りながら、吐き捨てた。
「からかうのはてめぇの勝手だが、相手はまだガキなんだ。本気にしちまうだろうが」
ミケも自分の椅子に座りながら、愉快そうに言い返す。
「リヴァイ、からかったのはマヤではなく… お前なんだが」
「あ?」
「リヴァイ、本当はお前がさっきの俺みたいに、マヤを抱きたいんだろ?」
「あぁ!?」
今日一番の不機嫌そうな声が飛ぶ。
「何を言ってんのかわかんねぇな」
「おいおい素直になれよ、リヴァイ」
リヴァイのこめかみに青すじが立つ。
「てめぇ、削がれてぇのか」
どうやら真剣に怒っているらしいリヴァイを見て、ミケはそれ以上からかうのをやめた。
「無自覚らしいがな、リヴァイ。お前、なんでここに毎日来るか一度じっくり考えてみるんだな。お前はマヤのことが…」
ミケがそこまで口にしたとき、扉をノックする音が聞こえマヤが香り高い匂いを連れて部屋に入ってきた。
「お待たせしました…」
テーブルにお茶のセットをならべながら、マヤは微笑んだ。
「兵長、今日の茶葉は昨日父が送ってくれたものなんです」
顔を上げたリヴァイの目を見ながらつづける。
「なんでも今クロルバでは、紅茶と果実を調合するのが流行っているんですって」
「ほぅ」
「うち以外に紅茶を出すところが数軒あるんですけど、そのうちの一軒が林檎と紅茶を調合したんです。そうしたら大評判になって…」
マヤはポットのふたを開け、香りを確かめながら中身をかきまぜた。
「父も負けじと、オレンジと紅茶で対抗したらしいです」
マヤは笑いながら、そのオレンジの芳香のする紅茶を注ぎ分ける。
「そうしたらこれが大当たりで… はい、どうぞ」
「ありがとう」
リヴァイに紅茶を差し出したあとは、ミケに渡すために立ち上がった。