第26章 翡翠の誘惑
………!
マヤとペトラは、もう頭ではわかっていたことなのに、目の前に立っているレイの美しさに息をのんだ。
「ペトラ、オレはレイモンドだ。レイでいい」
「はい…」
ペトラは銀髪のすき間からのぞく翡翠色の瞳の輝きに魅入られてしまっている。
「クソ貴族のせいで怖い思いをさせたな。すまねぇ」
「いえ!」
まさかレイが頭を下げるとは思ってもおらず、ペトラは慌てて立ち上がった。
「まぁ、オレもそのクソな貴族なんだけど? 全く洒落になんねぇよな」
白い歯をのぞかせたレイの姿にペトラの鼓動は跳ね上がった。
「マヤ…」
レイはペトラに挨拶を済ませると、同じくソファから立ち上がっているマヤを見つめた。
「ドレスも似合っていたが、軍服もグッとくるな」
「………」
じろじろと頭のてっぺんから足のつま先まで舐めるように見られたのちに放たれた言葉に、マヤはどう返せばいいかわからず黙ってしまった。
だが、これだけはどうしても言いたい。
「レイさん、ありがとうございました」
あのときレイの協力がなければ、いち早くペトラが拘束されていた部屋にたどりつけなかったであろう。一秒でも遅ければペトラはカインに何をされていたかわからない。
それにそもそもペトラの助けを求める声を聞けたのだって、あの北側にあるテラスに一緒にいたからだ。
「何が?」
礼を述べたマヤに訊き返すレイ。
「レイさんのおかげで、ペトラを助けられたから…。あの部屋に早く駆けつけられたのはレイさんがいたからだもの」
「ハッ、そんなことねぇと思うぜ? ペトラのところへ早く行けたのは、マヤがなりふり構わずヒールを脱ぎ捨てて駆けてったからだろ?」