第25章 王都の舞踏会
「待ちたまえ」
不審そうなグロブナー伯爵の声が、エルヴィンとナイルの間に割って入る。
「一体誰なんだね?」
どうやら伯爵は、ナイルのことを知らないらしい。
「ハッ、貴族に顔が売れていないようだな… ナイルよ」
「リヴァイ、そういうお前だって今日、伯爵は初めて知ったと思うが?」
エルヴィンがすかさずリヴァイに突っこみを入れた。
「……仕方ねぇだろ。ここに来るのは初めてなんだ。大体、今までの夜会であいつを見かけた覚えがねぇが?」
リヴァイはそうつぶやいて、伯爵の顔をじろりと睨む。
するとその答えは、レイが与えてくれた。
「だろうな。オレのところもアトラスのところも、呼んでねぇし」
「そうそう、招待がないと下位貴族は上の夜会には出られないからね!」
アトラスも言い添える。
「要するにナイルが無名というよりは伯爵が… ということでいいかな?」
めずらしくエルヴィンがふざけた調子で言いつのる。
「あっはっは」「ハッ」
おのれの存在を無視して内輪で盛り上がっているエルヴィンたちに対して、伯爵は激昂した。
「私の質問に答えたまえ! その男は誰なんだ!?」
「……これは失礼つかまつりました、グロブナー伯爵」
うやうやしい態度でナイルが一歩進み出たが、今までのいきさつから馬鹿にしているようにしか聞こえない。だがナイルにそんなつもりは毛頭なく、本人はいたって大まじめだ。
「憲兵団師団長のナイル・ドークと申します」
「憲兵団…、師団長…?」
「そうです」
伯爵の顔色がみるみるうちに悪くなる。
「残念だったな! いくら地区長を丸めこんでも、それよりも遥か上のトップが来たとなれば、なんの役にも立たねぇクズ同然の買収劇だったな」
「レイ、そんなクズ同然とか… はっきりと本当のことを言ったら伯爵が可哀想だよ」
「それもそうだな」
レイとアトラスは無二の友らしく、仲の良いところを見せている。
「伯爵、ミスリル銀の純度を偽っている容疑で話を伺いたい」
ナイルの言葉に、伯爵はがっくりと肩を落としうなだれていて、返事をする元気もない。