第25章 王都の舞踏会
「ナイル、実はまだあるんだ」
「どういうことだ、エルヴィン?」
「非常に残念だが、伯爵の容疑はミスリル銀以外にも憲兵への賄賂疑惑が新たに加わっている。おまけにご子息のカイン卿がペトラに対して暴行を働いた」
「ペトラ?」
ナイルが自然とベッドの上で寄り添っている二人の女… マヤとペトラを一瞬見やる。
「事情があってドレスを着ているが、私の部下の調査兵だ」
「……そうか」
暴行と聞いて、ナイルの視線が悲しい色を帯びている。
ペトラはどうしたらいいかわからなかったが、場の雰囲気から名乗る必要もないと判断し、ただナイルに向かって頭を下げた。
それを見てナイルも、慈悲深い目で軽くうなずく。
そして次に伯爵へ視線を投げたときには優しさは消え、確固たる正義の目をしていた。
「あらためてグロブナー伯爵、ミスリル銀の純度の疑惑、憲兵への賄賂疑惑の容疑で話を伺うので憲兵団本部までご同行願います。またミスリル銀の件では箔職人の失踪事件も合わせて聴取させていただく」
くるりとカインの方を向き、つづける。
「カイン卿、ペトラへの暴行容疑で同じく本部までご同行を」
「パパ!」
助けを求め叫ぶカインだったが、もう伯爵にはなんの手立ても残ってはいなかった。
「あきらめろ、カイン。ここは従った方が得策だ」
観念した伯爵に合わせたかのように入り口から憲兵が数人入室してきて、伯爵とカインの二人を丁寧に連行していった。
「エルヴィン、大広間にいる貴族や屋敷内の使用人への対処は部下にさせる。この部屋が暴行の現場か?」
「あぁ」
「ならば速やかに別室に待機してもらおうか。ペトラ」
「はい…」
ナイルに呼ばれて、ペトラは緊張で少し声が震えている。
「事情を訊かねばならない。辛いだろうが… いけるか?」
「大丈夫です」
ペトラは無意識のうちにマヤの手をぎゅっと握って返答していた。
マヤも力強く握り返した。言葉は交わさなくても、心はひとつ。
こうしてナイルの手配した有能な本部の憲兵がてきぱきと仕事をして、現場の処理、貴族や使用人、ペトラを始めオルオやマヤ、アトラス、レイ、エルヴィン、リヴァイ… すべての関係者の事情聴取がつつがなくおこなわれた。