第25章 王都の舞踏会
「エルヴィン団長。何を言っているのかね? やはり壁の外で巨人相手に剣を振るような野蛮な兵士は、人間とのコミュニケーション能力が劣っているのかもしれないね。私の言葉をきちんと聞いていたのか? 私は地区長をも懐柔していると言ったんだ。仮に正義感に燃える憲兵がいたところで… トップの地区長が腐っているんだ。そのまま消し炭になるのがオチだね」
地区長を買収してあることが、よっぽど伯爵の自信につながっているらしい。エルヴィンの発言にも全く動揺すらしていなかった。
エルヴィンはやたら上から物を言う伯爵に苛立つこともなく、静かな笑みを浮かべて時計に目をやる。
「……そろそろだろう」
「やっぱり変だな、調査兵団なんかに属していると…」
伯爵のセリフは最後まで言わせてもらえなかった。
「待たせたな、エルヴィン」
開け放たれている扉付近から、低い声が流れてきた。
エルヴィン以外の皆が一斉に振り返る。
「「「兵長!」」」
マヤとペトラ、そしてオルオが思わず叫んだ。
入り口にはリヴァイと、リヴァイが連れてきたナイル・ドークが立っていた。
「遅かったな、リヴァイ」
エルヴィンがゆっくりと振り返る。
「この薄ら髭がもたもたしやがってな…」
リヴァイはちらりとナイルに冷めた視線を送る。
「おいおい、リヴァイ。それはないだろう? こちとら重要な会議中だってのに、部下の制止を振りきって会議室にずかずかと入ってきたかと思えば、首根っこを掴んで強引に拉致しといてよ…。あんな乱暴なやり方ではなく正規の手順を踏めば、さっさと手配できたものを…」
ナイルはそのときの会議室での混乱を思い浮かべて、ため息をつく。
「は? 人聞きの悪ぃことを言うな。てめぇが事情を聞いた途端に、失踪事件とやらが関係しているとかで裏を取ったりするから駆けつけるのが遅れたんだろうが」
エルヴィンに “至急ナイルを連れてきてくれ” と命じられたリヴァイは、ナイルがあっちに連絡を入れ、こっちに命令を下したりと、なかなか憲兵団本部から出発しなかったことに苛立ちを隠せないでいる。
「そう睨むなよ、リヴァイ」
ナイルは肩をすくめてから、エルヴィンに問う。
「リヴァイから伯爵の疑惑は聞いたが…?」
「あぁ、疑惑は確証になった」
エルヴィンの不正を許すまじという凜とした声が部屋に響いた。