第25章 王都の舞踏会
無言を貫くアトラスを見て、ますますグロブナー伯爵は調子に乗って責め立てる。
「否定しないということは、私の読みは大当たりなんだね? まぁ… そんなところだろうとは、すぐに予想がついたよ。いくらロンダルギア侯爵のご子息とはいえ、私から見ればまだまだ若造だからな。バルネフェルト家にも、その従者を給仕か何かで忍びこませて短剣をちょいと拝借したんだろう? 私だって鬼ではないんだ、君がバルネフェルト家の家宝を窃盗したとは言わない。今回、この派手な立ち回りをするために、少しの間だけ借りたつもりなんだろう? 気づかれずに元の場所に戻しておけば、なんのお咎めもないだろうからとな。だがそうは問屋が卸さない。なぜなら私がこの件を公にするからだ!」
伯爵がぺらぺらと演説まがいに一人で話し始めてから、初めてアトラスが食いついた。
「へぇ…。それは殊勝な。自らの罪をおおっぴらにする気があるんだね、感心感心!」
「君は人の話をちゃんと聞く気があるのか。私が言っているのは、君が国宝にも値するバルネフェルト家の短剣を、そこの…」
伯爵はレイのボサボサ頭を指さした。
「従者を使って外部へ持ち出したことだ!」
……決まった!
冴えない使用人の男をピシッと指さして、堂々と不正を指摘してやった。
伯爵はおのれの不正のことなど綺麗さっぱり忘れて、悦に入っている。
すっかり気を良くした伯爵は上機嫌でつづける。
「だがな、アトラス君。先ほども言ったように私は冷酷無情な鬼でもなんでもない。ここはひとつ、取引をしないか?」
「……へぇ、どんな?」
「なぁに、決まっているじゃないか。私は君のバルネフェルト家への窃盗まがいの行動を黙っていよう。だから君も目をつぶってくれないか。そうしたら今後加工する品については、きちんとした純度で仕上げると誓う。値段も相場にしよう。ただ… 今までに売ってしまったものについて、君が見逃してくれたら丸く収まるってことだよ」