第25章 王都の舞踏会
「……うっ」
低い声でうめいたきり、グロブナー伯爵は何も言い返すことができない。
「パパ! 嘘だよね? 本当にインチキしていたとか僕は信じられないんだな。パパ! なんとか言ってくれよ、パパ!」
キンキン声で伯爵に訴えかけているカイン。どうやら彼は父親が他の貴族たちを騙してミスリル銀のメッキものを売っていたとは知らなかったらしい。
息子の悲痛な叫びに顔をゆがめて黙っていた伯爵だったが、急にその苦しそうな顔色が回復していく。
濁っていた目にも輝きがよみがえる。
何かに、気づいたらしい。
「……アトラス君。確かにもう、言い逃れはできないかもしれないね。その断面が白日にさらされた以上は…」
不敵な笑みすら浮かべている。
「だが…。君だってもう、堂々と表を歩けない身なのでは?」
「はぁん?」
伯爵が何を言いたいのか理解できず、アトラスの声は間延びした。
「見事に我がミスリル銀で加工した剣を真っ二つにしたその短剣…。それはバルネフェルト家の短剣なのではないか?」
「………」
アトラスが何も答えないのをいいことに伯爵はどんどん勢いづく。
「確か… 何代か前のフリッツ王から公爵家が賜った門外不出の家宝のはず。一度だけちらと遠目から飾られているのを見かけたことがあるが、なぜそれがこんなところに…」
ちらりとレイの方に視線を送る。
「……あんなむさ苦しい頭の男の懐から出てくるんだろうね?」
「………」
まだアトラスは何も言わない。
「あの男は…、名前はレイだったかな? うちの給仕服を着ているが、あんなむさ苦しくてダサい給仕はうちにはいない。人手が足りなくて仕方なく臨時雇いでうちに入りこんだんだろう。というか…、アトラス君、君が送りこんだと言うのが正しいんじゃないかね?」