第25章 王都の舞踏会
「べっぴんさんたち、ご心配なく!」
どうやらアトラスは地獄耳らしい。
「大きさよりも純度さ。この世で一番しなやかで強いミスリル銀を傷つけることは、他のどの鉱物にもできやしない。だけど同じ硬度であるミスリル銀同士なら…? どちらも傷つかないか、どちらも傷つくか…、恐らく同レベルの結果になるだろう。そして完璧なミスリル銀のものと、一部だけミスリル銀のものがぶつかれば、結果は目に見えている。さぁ、その瞬間を見逃すなよ!」
アトラスは快活にそう叫ぶと、剣を振り上げる。
それに応じてレイが短剣で自らの顔を防御するように横に構えるのと、グロブナー伯爵が大声を発するのとが同時だった。
「待てぇぇぇぇぇ!」
「やだね! 行くぞ、レイ!」
アトラスは数歩離れた先に短剣を顔の前で構えて立っているレイに飛びかかるようにして一気に近づき、両手で振り上げた1メートルの剣を力いっぱい振り下ろした。
カッキィィィィィィィィィン!
バキッ!!!
振り下ろして接触した瞬間はミスリル銀同士がぶつかり合う派手で澄んだ金属音が部屋に響いたが、その後ほどなくしてバキッと大きな鈍い音をさせてアトラスの剣が真っ二つに折れてしまった。
「「「あぁぁぁぁぁ!」」」
オルオ、ペトラ、マヤ、そしてカインまでもが、仲良く声を揃えて絶叫する。
伯爵は完全に体から血の気が引いて、今にも卒倒しそうだ。
エルヴィンは壁際に姿勢よく立ち、静かに状況を見守って、微笑みすら浮かべている。
「あっはっは! やっぱりな!」
見事に真っ二つに折れてしまった剣を拾い上げながら、アトラスが勝ち誇った声を出す。
「ほら、見てみな。これでも純度ミスリル銀100%だと言い逃れをする気かい? 伯爵!」
そう詰め寄るアトラスの持つ折れた刃の断面は、明らかに表面と内部で色からして違う、全く異なる物質で構成されていた。