第25章 王都の舞踏会
「フッ」
勝ち誇った様子のグロブナー伯爵を、アトラスは鼻で笑った。
「何がおかしい」
「だってさ~、なんか勝った気でいるみたいだから、ちゃんちゃらおかしくて。“恥を知りたまえ!” だって~、なぁ?」
アトラスはマヤとペトラの方へウィンクをしながら、ちゃかしている。二人は大笑いする雰囲気でもないので、ぎこちなく愛想笑いをした。
「さぁ、もうほんとこれ以上は時間の無駄だね。レイ!」
アトラスが唐突にレイの名を呼ぶ。
伯爵もカインも、オルオもペトラもマヤも。
すっかりその存在を忘れていたレイ。エルヴィンの背後にひっそりと立っていたレイが、すっと前に出てきた。
皆が “なぜ今、彼の名を?” と意外に思って驚いているなか、エルヴィンだけは涼しい顔をして部屋の壁際まで下がった。
「始めよう」
アトラスのひと声を聞き、レイは無言で懐から何かを取り出した。それは部屋中に散りばめるように配置されたランプの光を集めて、きらりきらりと輝いている。
「……それは…!」
喉の奥から絞り出すような伯爵の声が聞こえる。
「あぁ、そうさ。まぎれもないミスリル銀の短剣だよ?」
「……なん… だって…?」
「表面をミスリル銀でがっちりとコーティングしてあるこの剣をぶっ壊すことができるのは、この世でただひとつ。表面も中身も… いわば骨の髄までミスリル銀100%でできている剣だけさ!」
伯爵の顔から血の気が失せていく。
「マヤ、なんかあの短剣でぶっ壊すみたいだけど…。どう見ても無謀じゃない?」
ペトラが心配そうにささやく。
そう言うのも無理もない。
アトラスが両手で構えている剣は1メートル近くあり、レイが片手で握っている剣はせいぜい20センチほどしかない。
「大きさが違いすぎるね…」
マヤも不安そうに眉根を寄せた。