第25章 王都の舞踏会
「それなんだけど!」
ペトラも思い出す。
「カインが言ってたけどケーキのあれ、ミスリル銀だって!」
自分を襲ってきたカインのことを、早速呼び捨てにするペトラ。もう、キラキラした恋の真似事の魔法はとっくに解けている。
「やっぱりそうなんだね! あの粒って表面だけミスリル銀でコーティングしてあって、中身は甘かったじゃない? きっと今アトラスさんが言ってるのって、あの剣も表面だけミスリル銀で中身は全く違うものって意味よね?」
「うんうん! そうだね!」
興奮したマヤとペトラは、声を落とすことを途中からすっかり忘れてしまっていた。
だから部屋にいる全員に筒抜けだ。
「あっはっは! そう、そのとおりだよ? 君…、名前は?」
「マヤです」
「マヤか。いい名だな。君もリヴァイ班?」
「いえ、違います」
「そうなんだ。君までリヴァイ班だったら、あのしかめ面の兵士長に文句を言うところだったよ!」
「………?」
アトラスの言葉の意味がわからず、ぽかんとして顔を見合わせているマヤとペトラ。
「だってほら、ペトラはリヴァイ班だろ? だからマヤもリヴァイ班だったら可愛い娘だらけじゃないか。顔で選んでるんじゃないのかって言ってやりたいよ」
「「………!」」
思いきり面と向かって “可愛い” と言われて、マヤとペトラはびっくりして言葉が出ない。
カインもペトラに可愛い、理想の顔、理想のお姫様のオンパレードだった。
……貴族の男の人って、みんなこんな風に言ってくるものなの?
マヤが内心でそう思っていると、アトラスの豪快な声が場を仕切った。
「ちょっと話がそれちゃったね。要するに今、マヤとペトラが言ったミスリル銀でコーティングしたケーキと同じことさ。伯爵が貴族に売りつけているものは、ミスリル銀でコーティングしてあるだけなんじゃないかと俺は睨んでいる」