第25章 王都の舞踏会
「ひがむ? 俺が?」
心底理解できないといった表情で、アトラスは首を傾げた。
「なぜ俺がひがまなきゃならんのだ。俺はな、単に確かめに来ただけだ。噂ではな、グロブナー伯爵… あんたがミスリル銀と偽ってまがい物を売りつけてるんじゃないかってな」
「はははは!」
伯爵は高らかに笑った。
「アトラス君、今謝罪すれば許すよ。そんなにはっきりと贋物を売りつけていると中傷されて、私が黙っているとでも思うかね? だが、今なら冗談で済ましてもいい。高名なお父上に免じて」
「えらい余裕こいてるじゃないか?」
「当然だろう? いくらでも鑑定でもなんでもすればいい。間違いなく我が領土から産出されたミスリル銀を加工したものなんだからな。逃げも隠れもせんわ!」
「……そこなんだよな」
アトラスはふっと複雑な笑みを見せたかと思うと、また持っている剣をしげしげと眺めた。
「もちろん親父に相談する前から貴族の面々は鑑定してるさ。間違いなくミスリル銀だったらしい」
「はははは! そうだろう! そうだろう?」
伯爵の高笑いは天井を突き抜けそうな勢いだ。
「鑑定といっても、鑑定士の目視による光沢やら表面温度やら光の屈折度? 俺には専門的なことはちんぷんかんぷんだけどさ。あと重量とか手ざわりだっけな、そういう表面上の鑑定しかできないんだとよ、ミスリル銀が貴重すぎて。貴族にしたって安いといっても一財産くらいの金額は支払っている訳で。そう簡単にはぶっ壊せないらしくてな」
「……ぶっ壊す… だと?」
「あぁ、そうさ。確かに表面上はすべてミスリル銀だろうよ。誰が鑑定したってそういう結果が出るんだから。でもさ、表面だけミスリル銀でコーティングしていたら? たとえば… 金箔や銀箔のように」
「はははは…。よくもそんな戯れ言を」
天井を突き抜ける勢いは、もう伯爵にない。
「……あっ」
マヤが、すぐ隣にいるペトラの耳にしか入らないような小さな声を漏らした。
「……どうした?」
ペトラが、ささやき声で訊く。
「ほら…、応接間で食べたケーキよ。あの銀色の粒のアラザンっていうのは本当は食用の銀だけど、これはミスリル銀が使われているかもって言っていたでしょう? なんかそのことを思い出しちゃった…」