第25章 王都の舞踏会
「それが勘違いだと言っているのだよ、エルヴィン団長。ここは私の屋敷、私が主催した舞踏会。そもそも “たかだか痴話喧嘩” ごときで憲兵は来ないだろうな。百歩譲って来たところで、大勢の貴族の証言と少数の君たち兵士の証言と… どちらに重きを置くか目に見えている。だから “痴話喧嘩” か “暴行事件” かを決めるのは憲兵ではない、私… そしてひいては下のフロアにいる大勢の貴族なんだよ! それが社交界というものだ。残念だったな、はははは!」
グロブナー伯爵は腹の底から愉快そうに笑った。その顔はゆがんで、高貴のかけらもない。
……クソッ!
オルオが悔しさにこぶしを握りしめ、
……なんてこと!
マヤが貴族社会の理不尽さに眉をひそめる。
「確かにそうかもね~!」
その場にふさわしくない、やや能天気な声が聞こえてきた。
「確かに “痴話喧嘩” なら、貴族はあんたの味方をするだろうね?」
ニヤニヤと笑いながら、グロブナー伯爵に向かって話し始めたのはアトラスだった。
「アトラス君、何を言い出すのかね?」
伯爵はアトラスの言葉の真意が見えないらしく、警戒している様子だ。
「俺はさ~、下に集まっている大勢の物欲まみれのさもしい貴族たちがさ、本当にあんたの味方をするのかなって少々疑問なんだよね」
「何を言っているんだ?」
「だから、これ!」
アトラスは手にしている大きな剣を目の高さに持ち上げた。
カインの酔狂により、おびただしい数のランプが灯るこの部屋で、その剣は直視できないほどの白銀の輝きを放っていた。鞘には、おどろおどろしいグロブナー家の紋章が彫られている。
「あんたがせっせと貴族たちに、お得だとささやいて売りつけている… このミスリル銀の剣やら装飾品やらのことさ!」