第25章 王都の舞踏会
「彼から大体の事情は聞いた」
ちらりと背後に立つレイに信頼の視線を送ったのち、
「どうやらご子息の愚行をうやむやにしたいらしいが、私にはそのつもりは一切ありませんので悪しからず」
グロブナー伯爵に投げた視線は侮蔑の色が濃い。
「君は何か重大な勘違いをしているようだね?」
尊大な態度でエルヴィン団長に話す伯爵を見ながら、マヤは “勘違いと決めつけるのが好きな人ね” とあきれていた。
「もし仮に君がこの一件を憲兵に訴えたところで、痴話喧嘩に耳を傾けないと思うがね。彼らだって暇じゃないんだ」
「痴話喧嘩? 一方的に拘束されて暴力を受けたのが?」
エルヴィンはその太い眉を片方だけ高々と上げた。
「あぁ、そうだよ。舞踏会に出席していた誰もが、息子とペトラの熱愛ぶりを証言するだろう。なにしろずっと他の誰にも目もくれずに二人は抱き合って踊っていたのだからね。そうだね、ペトラ?」
伯爵はわざとペトラに質問をする。その声色は意地の悪さが際立っている。
「……それは…!」
ペトラは顔を赤くして、それ以上何も言えなくなってしまった。
カインに身をゆだねて踊っていたことは事実だ。
思い返しても羞恥に見舞われる。そして過去の自分に対する激しい怒り。このような事態におちいり、オルオとマヤだけではなくエルヴィン団長をも巻きこんでしまったことへの申し訳のなさ、悔しさ。すべての気持ちが入り混じって頭の中は叫び出したいくらいにいっぱいなのに、逆に言葉としては出てこない。
「……確かに大広間でのダンスの様子は、そういう証言をされても仕方がないかもしれないですね。だがそれと、二階の私室における暴行とは本来関係のないこと。“痴話喧嘩” か “暴行事件” かはあなたの決めることではない、伯爵!」
……いいぞ! 団長!
オルオは内心で拍手喝采を送った。
これでこの憎たらしいグロブナー伯爵は、ぐうの音も出ないに違いない。
そう思っていたのに、意外にも伯爵は涼しい顔をしている。