第25章 王都の舞踏会
怒りを通り越して、あきれてしまう。
だがペトラのために黙っている訳にはいかない。
「グロブナー伯爵、勘違いだと仰るなら勝手にどうぞ。私たちは上に報告するだけですので」
毅然と言いきったマヤ。
オルオは大きくうなずいて賛同を示し、ペトラはマヤへの感謝の気持ちをこめて、ますますぎゅっと寄り添った。
「へぇ… 言うじゃん、君」
アトラスは好ましそうな顔をして、マヤに笑いかけた。
「上に報告する? それこそ勝手にどうぞ? 調査兵団の上なんかにいくら訴えたところで、痛くもかゆくもないわ!」
グロブナー伯爵はそう吐き捨てると、さらにこう宣言した。
「君たち調査兵団一行はゲストルームに泊める予定だったが、こうなった以上当然今すぐ屋敷から出ていけ!」
「パパ! ペトラは僕とさっきのつづきをするんだ!」
「わかっておる。ペトラ、君だけは残ってもよろしい」
「お断りです!」
ようやくペトラが、いつもの勢いを取り戻した。
好意を寄せた貴公子に乱暴され、すっかり怯えていたが、もっとも信頼しているオルオとマヤが駆けつけてくれた。マヤに優しく抱きしめられ、ゆっくりとではあるがショックと恐怖が薄れていけば、卑劣な行為に対する怒りがこみ上げてくる。
「甘い言葉に騙された私も馬鹿だけど、あんたのしたことは許さない!」
カインを真正面から見据えて、言いきることができた。
「あぁ、ペトラ! そんな乱暴な言い方は僕の理想とは違うんだな!」
「は? あんたの理想なんか知らないわよ!」
「パパ! ペトラが…! 僕の理想のお姫様が壊れた!」
揺り椅子の上で、カインは泣きべそをかく一歩手前だ。
情けない息子の顔を目にしても、グロブナー伯爵は全く動じない。
「大丈夫だ、カイン。暴力に訴えるような仲間といるせいで、一時的に混乱しているだけだろう…」
伯爵がそこまで話したところで、部屋の入口から張りのある声が響いた。
「先に暴力をふるったのは、ご子息ではないのかな?」
「「「団長!」」」
オルオ、ペトラ、マヤはエルヴィンの登場に顔を輝かせた。
つづいて入ってきたレイは、マヤと目が合うと口角を上げた。
マヤも団長を連れてきてくれたことへの感謝の想いをこめて微笑み返した。