第25章 王都の舞踏会
「パパ! それはいくらなんでも言いすぎなんだな。確かに僕のペトラは僕と一緒に、自分の足でこの部屋に来たんだ。そして僕の絵のために自ら協力してくれたんだな。ほら、このランプ! これだけあればどんな表情も逃さずに僕には見えるからね!」
部屋中に配置されたランプを見渡して、揺り椅子を嬉しそうにぎこぎこと鳴らす様子はまるで子供だ。
「はぁ?」
カインの言っている意味がわからず、オルオは顔をしかめる。
「お馬鹿ばっかりだな、兵士ってのは。ランプで明るいと瞳の中の恐怖の色まで見えるじゃないか。それを僕が目に焼きつけて描くんだよ!」
「はぁ? 何言ってんの?」
カインが画家だなんて知りもしないオルオには、ますます何を言っているのか意味不明だ。
「そうかそうか、よくわかった! 絵のために襲うような状況をセッティングしていたところへ入ってきたもんだから、襲っていたと勘違いしたのか… この二人が。人騒がせな!」
迷惑そうな表情でグロブナー伯爵はオルオとマヤをねめつけた。
「違う!」「違います!」
二人は同時に叫んだ。
「勘違いなんかじゃない! ペトラは手錠でつながれて、口には布を押しこめられて抵抗していたんだ!」
「そうです! 大体、私たちがこの部屋に駆けつけたのは、ペトラの助けを呼ぶ声を聞いたからです!」
はぁっ… と面倒くさそうに大仰なため息をついたグロブナー伯爵は、必死で真実を訴えるマヤとオルオにはもう見向きもしない。
「だからそれが絵のためだってのに…。カイン、とんだ誤解をされたな?」
「うん、まぁね。でも僕は紳士だし、ペトラの顔も立てて、この失礼極まりない、おまけに暴力的な同期のことは許してあげてもいいかなと思い始めてるよ」
「さすが私の自慢の息子だ! 真の紳士は愚かな下賤の者にも寛大であるべきだからな! よし、君たち。本来ならば厳罰に処するべき卑劣な暴行事件だとは思うが、今回に限って不問に付そう。あぁ、君子たるカインに大いに感謝したまえ!」