第25章 王都の舞踏会
「違います!」
合意だなんてひどい嘘を平気でつくカインに憤ったマヤの声は震えている。
ベッドを振り返ったグロブナー伯爵は、マヤを睨み返す。
「君の意見はどうでもいい。ペトラ、本当にカインが襲ったのか?」
かなり落ち着きを取り戻していたペトラはしっかりと返事をした。
「はい」
「ふむ…。にわかに信じられないな。カインはね、芸術性に秀でた気持ちの優しい内向的な子でね、そんな… 嫌がる女性を無理やり襲うようなことをするとは思えない。それに、君のことを理想のお姫様だとわざわざ花嫁衣裳のようなドレスまで作らせて招待したんだ。そんな乱暴なことをする訳がないだろうが。それに大体君は、なぜこの部屋にいるんだね? ここまで息子に無理やり連れて来られたとでも言う気か? 大広間からここまで誰にも助けを求めずに? そんなことはあるまい。君は自分の足でここまで来たんだ。息子とそういう関係になることを期待してな! そうだろう? 我がグロブナー家の御曹司と既成事実を作ってしまえば、そっちのもんだもんな! この淫売め!」
はじめこそ穏やかな口調だったが、しまいにはまなじりを吊り上げてペトラをなじった。
伯爵の一方的なひどい言葉に、オルオは気色ばんで一歩近づいた。右手のこぶしは今にも殴りかかりそうに強く握られている。
マヤはショックを受けて再び震えはじめたペトラをひしと抱きながら、伯爵を厳しい目で見ている。今この状況でへたに発言してはまずいと冷静に判断してのことだ。本当は真っ先に違うと抗議して、できるならばオルオより先に殴り倒したいくらいだ。
ひゅうと口笛を吹いたのは、アトラス卿。ロンダルギア侯爵の嫡男である彼は、思いがけず面白い修羅場に遭遇したとニヤニヤして事の顛末を見守るつもりだ。
そして意外にも伯爵に抗議をしたのはカインだった。