第25章 王都の舞踏会
甲高いカインの呼び声は、すぐにグロブナー伯爵の耳に届いたらしい。
「カイン!」
開け放たれていた扉から、飛びこんできた。
「なんだ! この状況は!?」
グロブナー伯爵が慌てふためくのも当然ではある。
なにしろ息子のカインが一般兵士に床に組み伏され、殴られて腫れた顔で助けを呼んでいるのだ。
「パパ! こいつが…! このおっさんが僕を殴ったんだ!」
カインの情けない声のあとに部屋に響いたのは、
「あっはっは! 醜態をさらしてるじゃないか? カイン」
グロブナー伯爵のあとに入ってきたアトラスの豪快な笑い声だった。
なぜか手には大きな剣を持っている。この部屋の異常な数のランプの明かりを反射して怖いくらいにキラキラと光っている。
「なんだと…!」
アトラスに笑い飛ばされてカインは顔を憤怒で真っ赤にする。
「おい、おっさん! いい加減僕の上からどけよ!」
「………」
とりあえずはペトラをカインから引き離すことに成功した。
ペトラはマヤがしっかりと抱いて保護している。
新しく部屋に入ってきた二人は、伯爵はともかくもう一人の貴族の男は、どうやら敵ではないらしい。
今カインから離れてもペトラは安全だろうと判断して、オルオは立ち上がった。
つづいてカインも身を起こし、部屋の隅にあった高価そうな揺り椅子に座った。
「君…! どういうつもりだね!?」
グロブナー伯爵はオルオにすごい剣幕で詰め寄る。
「そいつ… いやカインさんが、ペトラを襲っていたんです」
「本当か? カイン?」
「確かにベッドの上に二人でいたけど、合意の上なんだな。それをいきなりドアを蹴破って入ってくるわ、殴ってくるわでこれ、暴行罪かなんかで憲兵に引き渡してもらえるよね、パパ?」