第25章 王都の舞踏会
「うるさいわぁぁぁっ!」
オルオの血しぶきを浴びてわめいているカインの顔を、オルオは思いきり殴った。
バキッ!
「ぐぁぁっ!」
一瞬白目をむいたカインは、オルオに組み敷かれたまま叫んだ。
「ぶったな! 二回も! パパにもぶたれたことはないのに!」
そして唐突に笑い始めた。
「あははは~。いいのかな? こんなことして。おっさん、せいぜい後悔するんだな!」
捨て台詞のような言葉を吐いたかと思うと、すぅっと息を吸った。
そして…。
「パパーーーーー! パパーーーーー!」
大声でパパ、つまりグロブナー伯爵を呼び始めた。
ペトラの指さした飾り棚の引き出しから、無事に手錠の鍵を見つけ出したマヤは急いでペトラを拘束から解いた。
「大丈夫? ペトラ…!」
震えているペトラを抱きしめる。
「マヤ! 私…! 私…!」
呼吸は少し落ち着いたが、泣きじゃくって震えて… 言葉にならない。
「ペトラ、ごめんね…! ごめんね…!」
自分がペトラから目を離さなければ…。
テラスでレイと話しこまずに、すぐに大広間に戻っていれば…。
ペトラがこんな目に遭わなかったかもしれないのに。
「ペトラ…! ペトラ…!」
マヤもいつしかペトラの名を叫びながら泣きじゃくり、ひしっと腕の中のペトラを抱きしめる。
「マヤ」
振り向くとレイが部屋の入口に立っていて、こう告げて走り去った。
「団長を呼んでくるから」
「……ありがとう…」
もうそこにはいないレイにつぶやくように礼を言う。
ペトラは震えながら、ひっくひっくとしゃくり上げている。
……私まで泣いたら、ペトラが不安になるわ。
マヤはこみ上げてくる涙をぐっとこらえて、腕の中のペトラを強く抱きしめた。
「大丈夫よ、ペトラ。もう大丈夫だからね」
ベッドの上でペトラを励ましていると、甲高い叫び声に度肝を抜かれる。
「パパーーーーー! パパーーーーー!」
つい先ほどまで煌びやかな舞踏会で優雅に踊っていた貴公子は、オルオに殴られて腫れている顔をさらしてキンキン声で叫んでいる。おまけに叫んでいる内容は、あろうことか “パパ” だ。
……なんて無様でみっともない人なの。
マヤはカインに、軽蔑のまなざしを向けた。