第25章 王都の舞踏会
疾走する。
次の角を曲がってまっすぐ走れば、玄関ホールだ。
パンプスを脱ぎ捨てたら、途端にいつもどおりに走れるようになった。ドレスはエステル立会いのもと、動きやすいように調整したのが功を奏しているのか、あまり妨げにはなっていない。
……ペトラ! さっきの声はペトラなの? 今、行くから!
角を曲がり玄関ホールが近づく。
誰かいる。
「オルオ!」
玄関ホールでオルオが、二人の貴族令嬢と立ち話をしている。
自身の名前を叫ぶ声。
振り向いたオルオは、ぎょっとした。
マヤが裸足で駆けてくる。
その後ろには、モップ犬の給仕。
「へ? 一体何事!?」
気づけば風のようにマヤは駆け寄ってきて、大階段の方へ。
「助けてって誰かが…! ペトラかもしれないの!」
「なんだって!」
今まで紅白ドレスの姉妹令嬢に丁寧な態度で接していたオルオだったが、ペトラと聞いて姉妹の存在は頭から消え去った。
即座にマヤのあとを追う。
「「オルオ様~!」」
姉妹の金切り声にも振り返ることはなく走りつづけ、大階段の途中でマヤを抜き去った。
二階に足を踏み入れるやいなや叫ぶ。
「マヤ、どこだ!?」
「わからないの! 手当たり次第見ていくしかない!」
廊下に面した扉を次々に開けていく。
バンッ!
施錠されておらず、また中に人もいない部屋ばかりだ。いちいち家具の様子を見ている余裕もないが、どうやらゲストルームが多い。
「クソッ! 誰もいない!」
「オルオ! 北側かも!」
「北側?」
「私がいたテラスの上から聞こえたの!」
レイが説明する。
「もし大広間の通用口からしか行けない階段を使っていたら、人けのない北側に出るからな。そっちから調べた方が手っ取り早ぇかもしれねぇな」
「そうか、北側ってどっちだ?」
「奥よ!」
走り出したオルオとマヤの背にレイが叫ぶ。
「このあたりはオレが調べるから!」
「「了解!」」
マヤとオルオは北側にある扉を片っ端から開け始めた。