第25章 王都の舞踏会
月明かりのテラスではレイがマヤに、今宵の舞踏会に招待された舞台監督のティムリー・バリントンと女優のヘレーナ・ボナミの新作の舞台の話をしていた。
「……あの二人はよくタッグを組むんだ。結婚秒読みと噂されている。この冬に公開される新作は、ベストセラー作家のセイレン・ファン・ホッベル原作らしいぜ?」
「えっ? もしかして “恋と嘘の成れの果て” ですか?」
ニファと二人で夢中になっている作品が舞台化されるのかと、マヤは声を弾ませた。
「悪ぃ。タイトルまでは知らねぇ」
「……そうですか、残念…」
肩を落としたところで、それはかすかに聞こえた。
「……助けて! 誰か…!」
反射的にマヤは上を見た。
「今、助けてって聞こえませんでした!?」
「あぁ、オレも聞いた」
「上の階?」
「この上はプライベートな部屋しかねぇはずだ」
「……ペトラかもしれない…」
つぶやいたマヤの顔は青ざめていた。
「今の声、ペトラかも!」
そう叫んだときにはもう、走り出していた。
「レイさん! 上に行く道教えて!」
レイもすぐさま走り出し、叫び返した。
「玄関ホールの奥の大階段!」
「………!」
テラスを出てすぐに、マヤはレイに追いつかれた。パンプスのせいで思うように走れないのだ。
「あぁ、もうっ! この靴じゃ無理っ!」
立ち止まってヒールのあるパンプスを脱ぎ捨てた。そしてちょいとスカートをめくって、膝下丈のシルクのストッキングも素早く脱ぐ。
ストッキングだけを胸元にしまうと、靴はそのままに駆け出す。
「おいおい、嘘だろ…」
あっという間に廊下の角を曲がって消えたマヤをレイは数秒の間、ぽかんと見送った。
急に靴とストッキングを脱ぎ捨てたかと思うと、疾風の如く駆けていった。
一瞬ちらりと見えた白い足首が、鮮烈に心に刻まれる。
「……なんてぇ女だ…!」
確実におのれの胸に芽生えた気持ちに今はふたをして、レイも駆け出した。