第25章 王都の舞踏会
「ある日届いたファンレターに、目を疑うことが書いてあったんだな。僕は今でも一言一句憶えているよ。“カイン・トゥクル様” …。あっ、カイン・トゥクルは僕の雅号だよ? トゥクルはママの旧姓なんだな。なかなかいい名だろう?」
ペトラは機嫌を損ねないように、こくこくとうなずく。
「“カイン・トゥクル様。トゥクル様のお描きになるアンの愛らしさはこの世のものとは思えません。あの小説は物語が優れているのはもちろんではありますが、トゥクル様のアンがいなければ今ほどは売れていなかったと思います。あぁ、トゥクル様の描くアンは理想の女性です…” 僕はここまでは、そうだろう? 当然なんだなと思いながら読んでいたんだ。しかし次に書かれていたことに驚いたよ。こう書いてあった。“トゥクル様のアンはこの世のものとは思えない美しさ、可愛らしさであるのに、なんと私はアンと同じ顔の人を見つけてしまったんです”」
カインはそこで一度、息を継ぐ。
「はぁ? 何を言ってるんだと思ったよ。僕の理想のお姫様が現実にいる訳ないだろうって。さらに信じられないことに、その似ている女が調査兵団の女兵士だと書いてあるじゃないか。なんでも壁外調査の出発を見に行ったときに偶然に見つけたそうだ。最初はそんな馬鹿げた内容は信じなかったんだな。でも、なんか無性に気になってきてさ、パパに頼んだんだな。壁外調査をやらせるために金を出してって。もし本当にその女兵士が僕のお姫様に似てるなら、ファンレターを送ってきた女以外も似てる兵士を見つけたって言ってくるんじゃないかって思ったんだ。僕って頭がいいと思わないかい?」
とうとうと語っていたのに、唐突に質問してきてペトラは慌てる。すぐに大きくうなずいた。
「そうしたら僕の読みは当たったんだな! ファンレターがまた届いたよ。それも何通も、色んな人からね。そうなってくると居ても立ってもいられないんだな。自分の目で見たくなるじゃないか。だからわざわざ! この僕が! じきじきに出向いて確かめたんだな!」