第25章 王都の舞踏会
……描く? ……何を?
混乱と恐怖の渦巻くなかで聞こえてきたカインの少し甲高い笑い声。
そして “描ける” という言葉。
ペトラの疑問が恐らく顔に出たのだろう。すぐにカインは反応した。
「あれ? どうやら不思議に思ってるね? 僕はね、節度は守るタイプなんだな~、そう言ったよね? だから最初はペトラに会うことはなく描くつもりだったんだな!」
……なんの… 話をしているの?
「わかるかい?」
そう問われてペトラはゆっくりと首を振った。
「やっぱ馬鹿なの? 僕のお姫様は…」
カインはやれやれといった様子で大げさに両手のひらを肩のところで上に向ける。
「僕の理想の顔に免じて、特別に教えてあげるよ。あぁ、なんて僕は紳士なんだ!」
自分で自分を褒めたたえて、すこぶる上機嫌だ。
「僕は幼少のみぎりから、あらゆる才能に恵まれていたんだな。そのなかでも特に秀でていたのが絵さ! 絵を描くのが得意でね、そしてこの美貌だろ? 自分で自分が怖いよ」
自己評価が高すぎる。
「皆には神童だともてはやされていたよ、当たり前だけどね。僕は何を描いても超一流で、風景だったり人物だったり動物だったり、さらには心の中の景色とか? いや~、そういう目に見えないものまで描ける僕って本当に天才だったと思うんだな。でもね、ある日…。あっ、そうだ。理解できるかな? あふれる才能を持ってしまった僕のことを?」
……わからない。わかる訳がない。
どう答えれば正解だろう?
とりあえずは今、カインが満足げに自身の才能を語っていれば、何もされずに済んでいる。もう触られたり、舐められたり、叩かれたりしたくない。
うなずくべきか、首を振るべきか。
ペトラは必死で考えたが、わからなかった。
ここは素直に自分の気持ちに従おう。
左右に首を振って否定を示したペトラに、カインは大きくうなずいた。
「あははは~! そうだよな! 顔だけのお前に、僕の… 神童ともてはやされた僕のことを理解できる訳がないんだな!」
……正解だった…。
ペトラはほっとすると同時に、カインが今まで名前やお姫様と呼ぶとき以外は “あなた” だったのに、“お前” になったことに気づいた。