第25章 王都の舞踏会
「ほんっとに最高潮にイライラしたんだな! あのシワシワのおっさんとさ、あの女…。ちょっと綺麗だと思ったけど、いつまでたっても二人して僕とペトラから目を離さないんだな。それが! やっと! 綺麗さっぱり消えてくれて! この瞬間を待ってたよ!」
興奮してまくし立てるカインの口角から泡が飛び散って、ペトラの顔にかかった。
「んんんんん!」
「そうだよ~、いいね~!」
カインは両手で、ペトラの細い首から露出している鎖骨のラインを撫でる。
「想像どおりの肌のなめらかさだよ。この愛らしいほっぺはどうかなぁ?」
カインが舌を出して顔を近づけてきた。
「んんん! ふぅぅぅ!」
いくら叫んでも、うめき声にしかならない。
迫ってくるカインの顔は先ほどまで、あんなにもハンサムだと思っていたのに今は、ちろちろと赤い舌を出して獲物を狙う蛇に見える。
嫌悪を覚えながらもペトラは、なぜか唐突にグロブナー家の紋章が鮮明に脳裏に浮かんだ。
剣に蛇が巻きついている、おどろおどろしい紋章。
「んんんんん!」
叫ぶことができないなら、せめてその蛇のような舌に捕らえられないように顔をぶんぶんと左右に振って抵抗した。
その途端に。
パンッ!
乾いた音が部屋に響いた。
ペトラの視界にチカチカと銀色の星がまたたく。
一瞬、何が起こったかわからなかった。
「ペトラ? 駄目じゃないか。僕から逃れようとするなんて? 次は受け入れるんだな。じゃないと何度でも… ぶつよ?」
薄ら笑いを浮かべながら、カインは右手を勢いよく振り上げ、ペトラの頬に振り下ろした。
「………!」
また叩かれると恐怖で目をつぶったが、痛みは来なかった。
恐る恐る目を開けると平手打ちをしようとした手のひらは、寸止めされている。
「あはは~! ぶたれると思った? 僕はそんなひどいことはしないんだな」
へらへらと笑いながら顔を近づけてきて、叩かれる恐怖でもう顔を左右に動かすことができないでいるペトラの頬を、じゅるりと舐めた。