第25章 王都の舞踏会
まぶしく光るミスリル銀の腕輪が近づいてくる。
「えっ、あっ、そんな高そうなもの…」
戸惑っていると、カインがもう目の前に。
「さぁ右手を出して?」
現実とは思えない。
美男子で物腰のやわらかな貴族の子息に何度も愛をささやかれて。
希少なミスリル銀をふんだんに使った腕輪、あまりの輝きによく見えないくらいの逸品を贈るとささやく甘い声。
……これは… 夢?
混乱したペトラは乞われるがままに右手を差し出してしまった。
カインは素早くペトラの右手に腕輪をはめる。
カチャリと響く金属音。
……これ… 腕輪…?
ペトラがはめられた腕輪の感触と金属音に違和感を抱いた瞬間、カインは目にも留まらぬ速さでペトラの左手を掴むと、またカチャリと冷たく金属音が響いた。
「えっ?」
自身の両手を見れば、銀色に輝く二つの輪っかに拘束されている。
どう見ても装飾品の腕輪ではない。
これは、手錠だ。
「ちょっとカインさん、これは一体…!?」
「あはは! 僕のペトラは馬鹿なの? 見てのとおり手錠なんだな」
「………!」
ペトラは手錠を外そうと、がちゃがちゃと音を立てる。
「なんの冗談ですか! 痛いです。外して?」
「冗談なんかじゃないよ?」
「お母様もこんなのつけてたら驚かれますよ?」
「あはは!」
アイスブルーの瞳が歓喜に満ちて輝いている。
「ママ? ママに会うと思ってたんだ。本当にお馬鹿なお姫様。ママは訳あって実家に帰っているんだな!」
「……えっ?」
「さぁ、おしゃべりは終わりだよ?」
カインはペトラの腕を掴むと、天蓋付きベッドに押し倒した。
手錠で拘束され、混乱して状況判断が遅れたペトラは脚でカインを蹴り上げるチャンスを逃してしまった。
着慣れないドレスも影響していたかもしれない。
素早く手錠をはめられた両手を頭上に持っていかれて、ベッドの金属のフレームにあらかじめ用意してあった鎖でつながれた。
「やっ! 嫌! 何すんのよ! ふぐぅぅぅ」
ペトラは叫んだが、すぐにカインに、タキシードの胸ポケットに入っていた白いポケットチーフを口に押しこめられた。
「ふぐぅぅぅっ! んんん!」
「あぁぁ! 夢にまで見たよ、この瞬間を!」
ペトラに馬乗りになって見下ろしているカインのアイスブルーの瞳が、狂気の悦びで震えていた。