第25章 王都の舞踏会
通用口を出ると、豪華絢爛な玄関ホールの脇にあった大階段とは違った風情の狭い階段がある。
カインの一歩後ろを歩きながら、ペトラは今の胸の内を語った。
「カインさん…。私、正直なところ色々と急展開すぎて、どうしたらいいかよくわからないんですけど…。お母様にご挨拶して、このままカインさんと…?」
「ん~、そうなんだ?」
なんだかよくわからない相槌を打たれたが、ペトラはつづけた。
「このままカインさんとそ… そ、そういうことになるとして…」
前を行くカインの背中を見つめながら必死で想いを伝えるペトラの頬は真っ赤だ。
「調査兵として心臓を捧げた以上、任務をまっとうしたい気持ちがあるんですよね…」
「心臓を捧げる? 何それ、あっ!」
カインが立ち止まった。
「ママの部屋はまだ奥だけど、先にここに用があるんだな。どうぞ、お入り」
扉を開けて、ペトラを招き入れた。
そこはおびただしい数のランプが煌々とそのともしびを輝かせて明るく、部屋の様子を隅々まで照らしていた。
壁際には今の季節には使用されない暖炉。マホガニーで統一された調度品。絨毯は廊下のそれよりもさらにふかふかとやわらかい真紅の毛足。
そして大きな窓のそばには真っ白なレースのカーテンに覆われた天蓋付きベッド。カーテンは開けられている。
「………」
さすがに天蓋付きベッドを目にして、かたまってしまったペトラだったが、カインの声が優しくて。
「ちょっと待って、これを僕のお姫様に…」
マホガニーの木目が美しい飾り棚の引き出しから、何かを取り出した。
カインの手にはキラリとまぶしいほどに光る装飾品。
「……それは?」
「うん。これはミスリル銀で作った腕輪なんだ。僕の愛の証としてペトラに贈るよ?」
微笑みながら腕輪を持って近づいてくるカイン。
「これをつけてママに会ってもらう」
ランプの数が多くて部屋が明るすぎる。
カインの華奢な白い手の中にあるミスリル銀の腕輪は、部屋中の光を集めては反射して、もはや直視できないほどに輝いていた。