第25章 王都の舞踏会
月明かりのテラスでマヤが、レイの話す名士たちの煌びやかな世界に耳を傾けているころ。
「……マヤ、まだかな? 大の方か?」
オルオがぶつくさと、ぼやいている。
「俺も便所、行きたくなってきたんだけど…」
ちらりとフロアで踊っている想い人に目をやる。
……すぐ戻ってくるからな、ペトラ…。
オルオは大急ぎで大広間を出ていく。
用を足して便所から出てきたところで、声をかけられた。
「……兵士様」
振り向くと、紅のドレスと白のドレスを着こなしている二人の貴族令嬢が微笑んでいる。
女性に声をかけられることなど慣れていないオルオは、右を見て、左を見て。
そしてもう一度正面の貴族令嬢を見てから、間抜けな声を出した。
「ほぇ? 俺?」
「ええ。兵士様にお尋ねしたいのですけど、リヴァイ様はどちらへ…?」
「あぁ…」
……なぁんだ、兵長が目当てか。
美人に声をかけられてドキッとしたが、そうか、そういうことか。
そうだよな、誰も俺なんかに声はかけないよな。
「兵長はちょっと出てるみたいっす。詳しくはわからねぇけど…」
頭を軽く下げて行こうとしたならば。
「そうですの…。兵士様はお強いんですの?」
自分には一切関心はないと思っていたのに。
「今日、リヴァイ様と来られたということは、エリート兵でいらっしゃるのでは?」
……エリート兵!?
その言葉はオルオの自尊心をくすぐる。
「いやぁ、エリートってほどでもねぇけど…。一応リヴァイ班だったり…?」
頭をかきながら照れくさそうに答えると、
「まぁっ! リヴァイ班とは… リヴァイ様の直属の兵士様でいらっしゃるということですわね?」
途端に玄関ホールに金切り声が響いた。
「きゃぁぁ! すごいですわね、お姉様!」
「そうね、マリアンヌ! 思いきってお声をおかけして正解だったわ」
どうやら紅白コンビは姉妹らしい。